新生活 新しい学校、新しい教室。春は全てにおける変化の季節だ。 何かの拍子に今まで知らなかったあの子の意外な一面が見えるかも。 そしてこの二人もついに高校生。 「おはよー黒みゅー!」 「おせえぞ、何やってたんだ。」 「写真撮り出したらなかなか解放してくれなくてー。」 「丁度いいところに居たな。シャッターを押してくれ。」 黒鋼はファイに続いて家から出てきたパパにいきなりカメラを渡された。口を利いたのは数年ぶりではなかろうか。断るのも面倒なのでしぶしぶカメラを構える。 「撮るぞ。」 カシャッ ・・・・・・・初めてパパがこっちを向いて笑ってくれました。 なんだか嫌な予感がする。(失礼) 「それにしても、何も朝から撮ることねえだろ。どうせ学校でも撮るんだろ?」 高校からは電車通学なので、駅に向かいながら黒鋼がぼやくと、 「それがねー、お得意様の社長さんと、どうしても断れない会合が入っちゃったんだって。大したことない会社相手だったら倒産させてでも入学式出るのにって嘆いてたよー。」 息子の入学式程度で他人の人生を壊すのはやめて欲しい。 学校へは制服販売などで何回か行ったことはあったが、入学式となるとまた違った感動。電車を降りればもうわくわくして落ち着かない。 「楽しみだねー、同じクラスになれるかなー?」 「さあ、どうだろうな。」 「お二人とも特待生でしょう?特待生クラスになりますから、3年間嫌でも同じクラスですよ。」 「!」 不意に背後から割って入った声に二人が後ろを振り向くと、 「てめえは・・」 「星史郎さん!」 「あ?」 ファイの方が先に名を出したことに黒鋼が驚いているうちに、ファイと星史郎の間では挨拶に花が咲く。 「うわー、お久しぶりです!今日は案内係ですかー?」 「ええ。君がここに進学するときいて楽しみにしてたんですよ。」 「星史郎さんもここなんですよねー。じゃあこれからは先輩ですねー。」 「そんなにかしこまらなくてもいいですよ、今までどおりで」 「ちょっと待て!」 置いてけぼりを食らっている自分に気がついて黒鋼は慌てて話しに割って入った。 「お前等知り合いなのか!?」 「うん、こちら桜塚星史郎さん。お父さんの会社のお得意様の息子さんでー」 「ファイさんとは幼なじみなんです。君は少し先輩への口の利き方を覚えましょうね、黒鋼君。」 「あれ、星史郎さん、どうして黒むーのこと・・・?」 「合格発表の日に不合格だったと泣いていたので、一芸入試を進めたんですよ。外見的特長が以前ファイさんが話していた彼とそっくりだったので、もしかしたらと思って。お陰でファイさんと同じ特待生クラス。よかったですね、黒鋼君。」 「なんだ黒様、一般入試落ちたんだー・・・」 ぎくり。せっかく黙っていたのに何を言ってくれるのだこの男は。 「ところでファイさん、帰りにうちに寄りませんか?今日はお父様は遅くなるでしょう?」 「?どうして知って・・・あ。」 「久しぶりに貴方と遊ぼうと思って。お父様が一緒では貸してくれそうにありませんから。」 そういえば今日の会合のお相手は星史郎の家が経営する会社の女社長、つまり星史郎の母親。 「星史郎さんが仕組んだんですかー。」 「ちょっと裏で糸引いただけですよ。仕組んだのは母です。」 星史郎はなかなか食えない男だが、母親も勿論似たような感じ、もしくはそれ以上。確かにあの人相手なら長引きそうだ。 (っていうか、裏で糸を引くって日常会話で使うか・・・?) 目の前の男の背景に最強の二文字を見ながら黒鋼があっけにとられていると、最強の人から温かいお誘いを受けた。 「あ、黒鋼君も来たいならどうぞ?」 なんだかおまけ感が溢れていたが、ファイを一人で行かせるのもなんだか心配だったので、付いて行ってやることにした。 放課後にベンツが迎えに来た。 「お前どこでこんな奴と知り合ったんだ?」 ベンツは金持ちとヤクザが乗る車、と認識している黒鋼は、開運なん○も鑑定団に出てきそうなティーカップに口をつけながら隣のファイに尋ねた。星史郎の家は、庭だけで黒鋼の家が何件も入るくらいの豪邸だった。 「どこでってー、、オレが生まれる前から家同士の付き合いがあったからー。」 「家同士って・・・こんな金持ちとか?」 「ファイさんのお父上は、ああ見えても経済界のキングと呼ばれて世界的に崇められてるお方ですから。」 「キング!?」 ただの親ばかキングじゃなかったらしい。長期休暇のたびに海外旅行ばかり行っているから、多少金はあるんだろうなとは思っていたが。ちなみに春休みは夏に受験勉強で行き損ねたハワイに行ってきたらしい。ファイが熱を出すたびにあっさり会社を休むし、発言が時々えらそうなので、会社の中では結構な地位に居るんだろうとも予想していたが、其処まで飛躍した予想に持っていけなかったのはあの家のせいだろう。 「じゃあ何であんな家に住んでんだ。金持ちなんだろ?」 一般人の固定観念かもしれないが、あの家は金持ちの家のサイズじゃない。 「ああ、それはなんかお母さんの遺言らしくて。経済界って交友関係にどうしてもお金が絡むでしょー。それにお金持ちってその・・・なんか変な人多いし・・・。」 「だから普通の社会の中で、普通の学校に行って、普通の友達を作って欲しかったそうですよ。はっきり言ってお父上が変な人なのであまり効果はないと思うんですが。」 人の事を変だと判別する能力はあるようだが、変な人と言ったときにファイがちらりと自分のほうを見たことは気づいているのだろうか。 「というわけでとりあえず1年くらいってことでー。結局いついちゃったんだけどねー。ちなみに日本を選んだのは星史郎さんの実家があって何度か来てたからとー、治安がいいからボディーガードなしでも外歩けるからだったんだけどー」 「最近日本も物騒ですよね。車で送り迎え位してもらえばいいのに。」 「ってお父さんも最近うるさくてー。でも一人では帰らないって言う約束で何とか。黒たん剣術の腕も立つしねー。」 「あ?」 そんな話は初めて聞いた。いや、守ってくれと言うならいくらでも守ってやりたいが 「・・・お前、俺が居ないと誘拐されたりすんのか?」 「何その台詞ー。いなくなっちゃうみたいだよ?」 「・・・その・・・高校生になったらアルバイトをだな・・・」 「アルバイトー?」 「ああ、だからしばらく一緒には・・・その・・・帰れねえ」 「!」 「おやおや。」 そんな話は始めて聞いた。ファイは思わず叫ぶ。 「お金に困ってるなら相談してくれればいいのにー!」 「そんなわけねえだろ!人を貧乏人扱いすんな!」 「じゃあなんでー?」 「・・・ちょっと、欲しいものが・・・」 ファイの視線から逃れるように紅茶をすすった黒鋼は、次の質問にその紅茶でむせ返る。 「オレよりー?」 「ぶっ・・げほっげほっ・・・・・」 「しばらく会わないうちに言うようになりましたねえ、ファイさん。」 星史郎が一人だけとても楽しそうだ。 「じゃあオレも一緒に働くー。それかお客さんで行くー。」 「募集締め切りだ。それにお前が来る様な店じゃねえ。」 「・・・何それ、ホストー!?」 「そんなわけねえだろ!」 「ホストはともかく、部活の方はどうするんです黒鋼君?」 「部活はちゃんと出る・・・って、だからホストじゃねえって」 「部活は良くてオレは駄目なんだー」 「そ、そんなことは・・」 「釣った魚に餌やらないタイプなんですねえ。ファイさん、次はこんなのに捕まっちゃ駄目ですよ。」 「次とか言うな!別れ話なんてしてねえだろ!」 「それを決めるのはファイさんでは?」 「ゔ・・・・・・・・。」 黒鋼が横目でファイを伺うと、思いっきり顔を背けられた。 「・・・なあ、」 前を歩く背中に声をかけても返事が返ってこない。ファイがここまで拗ねるのは初めてで、どうしていいか分からずに黒鋼はため息をついた。星史郎が居ると何かとこちらに不利な発言をするので、帰りは自宅最寄り駅で降ろしてもらって自宅に着くまでに何とかなだめようと思ったのだが。 「・・・朝は一緒に行く。学校でもずっと一緒だろ。」 「学校でべたべたしたら怒るくせにー。」 「当たり前だ。」 不意にファイが足を止めて振り返る。また怒っただろうか。けれどファイは、黒鋼の肩に頭を乗せた。抱きしめて欲しい時の仕草だ。周りに人が居ないことを確認して黒鋼はファイの背に腕を回す。 「何が欲しいの・・・。」 「・・・秘密・・・じゃ駄目か。」 「オレに言えないようなものー?」 「いやその・・・お楽しみって言うか・・・買ったら見せる。」 「オレが喜ぶようなものー?」 「・・・どうだろうな・・・」 出来れば喜んで欲しいが、自信はない。 「・・・・・・何年くらいかかるー?」 「1年。」 「そんなに!?家でも買うのー?」 「アルバイトでそんなに稼げるわけねえだろ。労働で金を得るのは大変なんだ。だから・・その・・・」 「・・・・・欲しいんだよね・・・」 「ああ。」 微妙な沈黙が流れる。判決を待つ被告人のような気分で黒鋼が唾を飲んだ時、二人の隣を通通り過ぎた車が突然停車してバックで戻ってきた。よく見ると金持ちかやくざが乗る車、ベンツ。 (まさか・・・) 「何をしている。」 「お、お父さん・・」 (出た・・・) 後部座席から顔を出したのは親ばかキングアシュラパパ。そういえば経済界のキングもかねているのだったか。後部座席ということは運転手付き。どうりで家に車がないわけだ。 黒鋼は慌ててファイを抱いていた腕を放したが、もう遅い確実に見られた。しかし、 「ファイ、どうかしたのか?」 「ちょっと貧血起こしちゃってー。乗せてくれるー?」 「大丈夫か?」 死を覚悟する黒鋼を他所に、パパはあっさりファイの嘘に騙されて後部座席のドアを開けた。ほっとしたのも束の間、黒鋼はさっさと車に乗り込もうとするファイを慌てて引き止める。 「お、おい、さっきの話は・・・」 「・・・・黒みゅーが去年頑張って同じ高校入ってくれたから、オレも一年くらい我慢するよ−。でもバイトから帰ったら声かけてくれるくらいの愛が欲しいなー。」 「あ、ああ。約束する。」 車内に聞こえないように小声で告げられる条件を黒鋼が即座に受け入れると。 「じゃあいいよ。頑張ってね、また明日。」 そういってファイは飛び切りの笑顔をくれた。 走り去るベンツを見送りながら、黒鋼は別れ際星史郎にいわれた言葉を思い出す。 『そこそこ長い付き合いですが、ファイさんがここまで誰か一人に執着するのは始めてみましたよ。愛されてますね。』 あの時はどこがだと思ったものだったが、 (愛されてんのか・・・) 『頑張ってね』 ああどうしよう。また明日、といわれたが、今夜部屋に忍び込んでもいいだろうか。 そんな事を考えながら、黒鋼はこぼれる笑みを必死でかみ殺した。 =後書き= 夜道で一人で笑ってる人は大体変態です。 黒鋼さんちの親御さんに使えそうなキャラが原作に登場なさったので、学生黒ファイ再開です。 パパの職業を何にするかと考えに考えて、一話辺りでは医者と弁護士と社長で悩んでたんですが、2話でファイさんが熱出したらあっさり仕事を休んだということで社長かな?になり、でもただの社長じゃつまんないよねってことで経済界のキングに。雪流さんのイメージでは金持ちの車はベンツで休暇はハワイです。(その乏しいイメージが貧乏人だと告げている・・) 高校生編は家族愛も描くぞ!(近親相姦という意味ではなく) 車の中から黒ファイ見つけた途端に「止めろ!」って言って運転手さんの首締めてるパパが目に浮かぶ・・・。 星史郎さんは特に何かを仕掛けてくるわけではないけれど、出てきたら画面がなんか黒く見えるよーくらいのキャラで行きたいと思います。 復習:今回の(雪流さん的)萌えポイント『幼なじみ』『アルバイト』『頑張ってね』 予習:そんなこんなで次回ボディーガード君登場。 <金持ちは嫌いですか?> <お金より心ですか?> |