緋恋

たとえ傷ついたとしても  傷つけたとしても



ただ会いたかっただけ。

今夜は仕事があるからと昴流が病室を出て行くのを待って、そっと窓から抜け出して、夜の街を刀隠神社まで。『絶対安静』などという言いつけは、会いたいという気持ちの前には、何の意味も成さなかった。
会ってどうするつもりだったのかなど分からない。

ただ夢でも錯覚でも
そして痛みを伴ったとしても
彼が『封真』でなくても

秘恋が始まったとき、彼は既に彼だったのだから

最初から求めていたのは―――



「まだ、会いに来るんだな。」
そう口にする封真は、驚いた風など全くなく、むしろ少し嬉しそうに。
神威が来ることは分かっていたはずだ。神威の事は全て分かると、そういったのは封真自身。
それでも、声に出さなければ、伝わらない想いもあるのだろうか。

「会いたかったんだ・・・」
封真の前に立って、できる限りの言葉で、ありったけの想いを。
「『封真』じゃないことなんて、最初から解ってる・・・」
それでも、あの時、手の痛みは消えたのだ。
だから側にいたいと。
これが恋でなくとも。
所詮ただの夢でも。

「それでも良いって思えたんだ・・・・・・。」

言い終えると同時に、手をとられて抱き寄せられる。
重ねられた唇に、今度は自分の意志で応えた。
「んっ・・・・・・」
甘い声が鼻に抜けると同時に体勢が逆転して、背中にソファの感触を感じながら、更に深く求める。
絡めた舌が離れる音の後に、布が解ける音が続いた。

「ふう・・・・・・」
肌に触れた夜の空気に戸惑いを覚えて、思わず口走った名前を、途中で切ったのはその名で彼を呼んではいけないと思い出したから。
しかし他に、呼ぶべき名を知らない。
「ふ・・・うま・・・・・・」
恐る恐る呟くと、それで良いと言うように、頬に軽く唇が触れた。

ここでは紡ぐ音など関係ない。
誰を呼んでいるのかは分かっているから。



「あ・・・はぁ・・・・・・」
「辛いか?」
「大・・・丈・・・・・んっ・・・」

夜闇に、神威の体に巻かれた白い包帯が痛々しく浮かび上がる。
怪我を気遣ってそこに触れる事を避ければ、繋がりだけを求めるような形になってしまうのは仕方のないこと。
唾液で濡らしただけの指の、二本目の挿入に、さすがに神威の顔は苦痛に歪んだ。

ただでさえ、そこは受け入れることを知らないのだ。体の熱もまだ上がりきらない。
初めての行為に強張った体は、侵入した異物を締め付け、それがかえって己への苦痛になる。
神威の頬を流れた涙を、封真は新宿でしたよりもいくらか優しく、舌で掬い取った。

「神威、力を。」
「ん、あぁ・・・・・・っ」
耳元で囁かれる言葉を、頭では理解できても体が付いて行かない。それでも何とか息を吐くと、二本の指が一気に奥まで差し込まれた。
甘みを帯びた悲鳴が上がる。封真はなだめる様に何度も神威の頬に唇を落とし、自分に縋りつく指先が小刻みに震えているのに気付いて、その手をそっと口元に引き寄せた。そして、いつかしたように、そこに残る傷跡を舌でなぞる。

「ふう・・・ま・・・・・・あ・・・・・・」
震えが止まるのを待って、中の指を動かす。少し異物の感触に慣れ始めたそこに、今度はそれは痛みにはならなかった。
「あ・・・・・・は、あぁ・・・・・・っ」
声が上がるところを執拗に攻めれば、やがて内壁は柔らかく指に絡み出す。
封真は指を抜いて、神威の両足を持ち上げた。

瞬間、今まで熱を帯びていた神威の表情が引き攣る。
「っ・・・・・・」
「神威?」
「何・・・でもない・・・・・ごめ・・・・・・」
何でもなければ胸を押さえるはずがない。
新宿の戦いで肋骨を損傷しているのだ。無理な体勢をとれば、胸が痛みを訴えるのは当然のこと。
気付いて封真は体を離そうとしたが、それを神威が止める。

「やめ・・・ないで・・・・・・」
「・・・神威」
「大丈夫だから・・・」
懇願するようにそう言われ、しばし逡巡した後、封真は神威を抱き起こした。そして、腰を支えて自分を跨がせる。
「封真・・・?」
「力を入れるな。」
「あ・・・っ」
封真の熱が入り口に触れる。
開かれる感覚に、息が詰まった。

「っ・・・んっ・・・・・・」
ゆっくりと、封真は神威の中に自分を埋め込んだ。
「動くぞ?」
「あっ、あぁっ・・・!」
ソファが軋む。
突き上げは、神威の体が無理に曲がらないよう、強く抱きしめたまま。
密着させた肌の向こうに、互いの鼓動を感じながら。
二人は頂へ上り詰めた。




目が覚めると、部屋の中がぼんやりと白みだしていた。この時期、夜明けは4時半ごろだろうか。
病室に戻らないと。
まだ昴流が戻っていないことを祈りながら、神威はそっと体を起こした。

「動けるか?」
向かいのソファから、封真が声を掛ける。ずっと起きていたのだろうか。
「ああ・・・帰らないと・・・・・・」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫だ。来るときも、一人出来たんだから。」
そう言って、神威はソファから降りて外に足を向けた。そしてふと、思い出したように封真を見る。

「封真は、俺が見えなくなるまでここに居て。」
「・・・・・・どうして。」
「・・・ここから出たら、夢が覚めるから。」

夢はこの場所でしか見ることは出来ない。
神威が血で汚したくないと願ったのは、この場所だけだから。
外に出たら二人は敵に戻り、秘恋は夢に戻るのだ。

「ここから出たら、封真は俺を殺すだろ?だから、俺が先に行く。」
「・・・・・・お前が出て行った瞬間に夢は覚めて、後ろから殺すかもしれないぞ。」
意地悪く笑った封真に、神威も柔らかい笑みを返す。
「それは良いんだ。何も見なくてすむから。」




神威の姿が見えなくなった後も、封真はそこを動かなかった。
「どうしても、これを夢のままにしておきたいんだな。」
呟く声は、自分しか聞かない。

これは夢。甘い恋の夢。
けれど、本当に恋なら良いと。
思ったのはどっちなのだろう。感じる気持ちが誰のものか分からないほど。
何もかも分かるというのは、時には何も分からなくなるということらしい。

「神威・・・」
けれど分かってはいるのだ。
これは夢。恋であることを、気付いてはいけない。
秘恋とは、自分でさえ気付かないうちに胸に秘めた想い。
誰も気付かないままに、終わらせる想い。

もしこれが恋であることに気付いてしまえば、夢という逃げ場をなくした恋は、秘恋から悲恋に変わるのだ。




           
これは封X神なのかと首を捻る展開になってきました。
           ]は奥が深い・・・。(勝手に深めてるだけのような気もしますが。)
           今回の萌ポイント『ソファ』『肋骨』
           ・・・・・・おかしくてすいません。
           また手の傷を舐めさせてるのは、自分が楽しいからですよ。
           次回、最終回。
           今まで書いたエロの中で、これが一番優しさに満ちている気がします。
           ・・・・・・げふんげふん。




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