トライアングル・パラノイア 〜友達〜 明日は日曜日。 『高校一年、司狼神威君、お電話です・・・・・・』 寮内放送が自分の名前を呼ぶのを聞き、神威は顔を上げた。 「・・・・・・電話・・・?」 誰だろう。家族もなく、クラブにも所属していない自分に電話をかけてくる人間など、 (・・・二人しか・・・・・・・・・) 「暗い顔すんなや神威。ほら、はよ行かな、寮母さん困りはんで。」 同室の空汰には、神威の考えていることが分かったらしい。いや、空汰でなくとも、今週の初めに起こったダブル告白騒動を知っている者なら出れでも、今の神威の心境は容易に想像できるだろう。 電話の相手はおそらく。 「ダーリンその2よ。」 (・・・・・・どっちですか。) とりあえず寮母さんから受け取った受話器を耳に当てる。名前を聞かなくても、声を聞けば相手は分かった。 『あ。司狼君?』 「・・・瀬川・・・何か用か・・・?」 瀬川景一。外部入学の神威にクラスで初めて出来た友達だったが、今週月曜、愛してるなどと告白してから神威に猛烈なアタックを続けている。 電話の内容もそういった類のものだろう。 『明日暇?どこか行かない?』 (やっぱり・・・・・・) 「悪いけど明日はもう・・・」 『ひょっとして桃生先輩!?』 「・・・昴流と図書館」 桃生封真。神威の幼なじみだったが今週月曜、景一とともに神威に愛してるなどと以下略。 しかし明日の神威の予定は本当に図書館だ。昴流は大学部に通う学生で、神威にとっては兄的存在。 『そっか。皇さんならいいや。また今度ね。』 (封真だったら何かする気だったのか・・・?) そう思ったが口には出さず、神威が電話を切って部屋に戻りかけたとき、 プルルル・・・ 「はい、CLAMP学園男子寮・・・あら、はい、ちょっと待ってね。司狼君、」 「・・・・・・誰ですか・・・」 「ダーリンその1vv」 「いろいろ大変みたいだね。」 「・・・・・・・・・・・。」 噂は大学部のほうまで広まっているらしく、図書館前で待ち合わせた昴流は、開口一番そういった。しかも神威の気分とは裏腹な爽やかな笑顔で。この台詞さえなければ、この笑顔に癒されたはずなのだが。 「・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・・・・」 神威の口から重いため息がひとつ。 昴流はそれを小さく笑うと、神威を促し図書館に入った。 一方、ダーリンその1・その2。 「・・・・・・・・・何の用だ。」 「・・・先輩こそ、こんなところに何の用ですか。」 「お前には関係ない。」 「同意見です。」 二人が鉢合わせたのはCLAMP学園男子寮前。要するに神威の家の前。 昨夜デートを断られた二人は、ここで神威の帰りを待つことにしたらしい。 「変な所で気が合うわねえ。」 とは、寮から出てきた寮母さんの意見。 「何なら、二人とも中に入る?」 「いえ。ここで結構です。」X2 なんとしてでも相手より先に神威に会いたいらしい。 寮母さんはくすくすと上品に笑うと、わざと二人に聞こえるように呟いた。 「まあ、今日は特別だものね。」 「別に、嫌いなわけじゃないんだけど・・・」 「そういう意味では好きじゃないんだね。」 「・・・うん・・・・・」 カラン、と目の前のアイスコーヒーの中で氷が音を立てた。 外はもう夕焼け色に染まっている。閉館間際に図書館を出た二人は、喫茶店で午後の語らい・・・というか恋愛相談室。 休日の夕暮れ時の喫茶店内に、あまり客の姿はない。 「それで、神威はどうしたいの?」 「どうって・・・・・・」 どうしたいのだろう。自分でも分からない。 何も考えられない。愛してると言われたあの日から、頭の中が混乱して。 「友達じゃ、駄目なのかな・・・」 「それが君の答え?」 「・・・・・・・分からない・・・」 けれど、今のままで十分だと思う。二人は、認めてくれなかったけれど。 「・・・いいんじゃないかな。」 「え?」 昴流が持ち上げたグラスの中で、また氷が涼しげな音を立てた。 「友達でいたいなら、それでいいんじゃないかな。」 氷の奏でる音よりも、はっきり耳に響く声。 「だ・・・けど・・・・・・」 その声が認めた答えは、あの二人が認めなかったもの。 けれど、 「神威がそうしたいなら、それでいいんだよ。変にギクシャクしないで、今までどおり接すればいい。あの二人も、君にその気がないなら、あんまり強引なことはしないだろうから。」 「そう・・・かな・・・・・・」 「そうだよ。」 あっさり肯定して、昴流はストローに口をつける。 白いストローの中を、コーヒーが上って行くのが透けて見えた。 何となく、納得する。 (このままでいいのか・・・) 「それに、」 「え?」 ストローから口を離して、昴流が更に付け足す。 「そのうち神威の気が変わるかもしれないから。」 「・・・・・・変わらないっ!!」 思わず赤面して叫んだ神威は、店中の人間の目が自分に集中したことに気づき更に赤くなり、それを昴流に笑われて余計に真っ赤になる。 「まあ、今はどう思ってても、変わることはあるから。」 昴流は言葉を続けながら、自分の横に置いてあったかばんを膝の上に乗せて中を探った。 「答えも変化も、いつでも自分の中にあるから、過去の気持ちにとらわれすぎて、今の自分に向き合うのを忘れちゃ駄目だよ。あ、はい、これ。」 まるで会話の続きのように、昴流が神威に差し出したのは、綺麗にラッピングされたひとつの箱。 「何、これ・・・?」 「プレゼント。16歳おめでとう。」 「・・・・・・・・・・・・あ。」 忘れていた。そういえば今日は・・・ (ひょっとして・・・) 「昴流、ゴメン、俺っ・・・」 「うん。気をつけて帰ってね。二人によろしく。」 「またなっ!」 昴流からもらった箱を自分のかばんに入れて、慌てて店を出て行く神威の背を見送ったあと、昴流も静かに席を立つ。 この後、この店の前で待ち合わせをしている。 約束の時間は6時だったから、まだ20分も早いのだが、 「いつもこんなに早いんですか?」 「昴流君をお待たせするわけにはいきませんから。」 店をでると、星史郎が待っていた。神威は気付かずに行ってしまったようだが、昴流は店の中から気付いていた。 そのまま促されて、星史郎の車に乗り込む。今日のディナーはイタリアンだそうだ。 「神威が大変らしいですね。さっきなにやら話し込んでいたのは、その相談ですか?」 「ええ。」 何処まで広まってるんだろうと思いながら返事を返す。 「僕に恋愛相談しても、しょうがないと思うんですが。」 「でも、何か言ってましたね。」 「・・・・・・北都ちゃんの受け売りです。」 それは、昴流自身が、ついこの間言われた言葉。 「答えも変化も、いつも自分の中にある。」 「そうですね・・・。それで、昴流君の中も変化はあったんですか?」 「・・・・・・・・」 言葉を返せるほどではなくても、うつむいた口元にわずかに笑みが漏れたなら。 それが変化の証拠だ。 「誕生日おめでとう(っ!!)」X2 昴流と別れ、急いで寮に戻ると、予想通りそこで待っていた二人にプレゼントを渡された。 「あ・・・ありがと・・・」 受け取って、上目遣いで二人を伺う。いつから待っていたのだろう。 「あの・・俺、誕生日だって忘れてて・・・せっかく誘ってくれたのに・・・」 せめて覚えていれば、祝ってくれるのだと予想もついたのだろうが。結果、こんなところで待たせることになってしまった。 しかし、二人は少しも気にした様子はなく。 「いいよ、来年は俺とパーティーしよう!」 「気にするな。来年は二人きりで祝ってやる。」 (またそういうことを・・・) けれど、もう分かったから。このままを望むなら、このままでいいのだと。 「わかった。」 「へ?」X2 「来年は三人でパーティーな。」 「・・・・・・・・。」X2 まさかこう返って来るとは思わなかったのだろう。二の句が告げない二人に、神威は穢れなき天使のような笑顔を向けるのだった。 まだ続きますよ。むしろここから。 神威ちゃんが魔性になりました(違) 寮母さんはかれんさんのイメージ。 一番すごいのは、神威ちゃんが誕生日だって知ってて図書館に連れ出した挙句、 二人より先にプレゼント渡してる昴流君。何気に最強。 次回『恋人』 BACK NEXT |