トライアングル・パラノイア 〜告白〜 「愛してる。」X2 「・・・・・・は?」 思わず返した一言は、翌朝の新聞の一面の見出しになりました。 「お、載っとる載っとる。ほら神威、トップ記事やで。」 「うるさい!」 寮のルームメイト、有洙川空汰の、朝だというのに底抜けに陽気な声に、神威はあからさまに不機嫌な言葉をぶつける。しかし空汰は気にする様子など微塵もなく、楽しそうに手にした新聞を読んでいる。 その新聞は『CLAMP学園新聞』。CLAMP学園新聞部が発行しているもので、寮には毎朝、一部屋に一部配達される。世間のニュースのほかに、CLAMP学園内のちょっとした事件なども載っている、ちょっとお得な新聞だ。 ちなみに空汰が騒いでいるトップ記事とは、もちろん昨日のダブル告白事件。 「それは昨日、夕暮れ時の校庭でのことだった。ルームメイトとともに寮への帰路に着いた司狼神威君(一年Z組)を、二人の人物が呼び止めた。一人は桃生封真君(二年Z組)、いわずと知れた剣道部の若きエース。もう一人は瀬川景一君(一年Z組)、明るい笑顔で周りから信頼を集める学級委員長。それぞれがそれぞれに有名なこの二人は、なんと下校中の生徒も多数いる中、堂々と司狼君にダブル告白。告白の言葉は二人仲良く『愛してる』。飾らずストレートに、という所がこの二人らしい。突然のことに戸惑った司狼君は、返事は保留にしたようだが、どちらとむすばれることになってもビッグカップル誕生には間違いない。今の所、同じクラスでいつも側にいる瀬川君に利があるかと思いきや、桃生君は司狼君の古くからの友人。共有して来た時間の差が大きな武器になるかと思われる。先の読めない争いだ。これについて、その道の専門家、妹之山理事長にお話を伺ったところ・・・」 「もういいっ!!」 標準語で書かれた新聞を、大阪弁の妙なイントネーションで読み上げる空汰の手から、神威は新聞を奪い取った。ここは寮の廊下。登校時間で、他の生徒も大勢いる中、こんな記事を大声で読まれてはたまったものではない。 などどいう心配もむなしく、どうやら寮生はほぼ全員このことを知っているようで、先ほどから視線やひそひそ話があちらこちらから。 「こんなの、ガセネタじゃないか!俺はちゃんと返事した!」 そう、あの場ですぐに、返事は返したはずだ。保留にした覚えはない。 この新聞、所詮は生徒が作っているものなので、学園内の記事に関しては生徒受けを狙って誇張が混じったりする。 「まあ、そお怒んなや。」 そういって空汰は、神威に丸められる寸前の新聞を取り戻す。学校に行けば、校門前あたりで、同じものが号外として配られているだろうが。 「新聞部はこの三角関係を密着取材していきたいと思います、って書いてあんで。頑張りや。」 「・・・・・・。」 空汰にとっては所詮、人事だ。 朝からどっと疲れを感じて、神威は盛大なため息をついた。 今から学校。登校すれば、あの二人に会わねばならない。どんな顔をして会えばいいのだろう。 (愛してる・・・なんて・・・) 今度は無意識に、神威の口から息が漏れた。 『あの・・・俺、男だけど・・・』 『それがどうした?』 『いや、どうしたもなにも・・・』 『そんなこと分かってるよ。それでも、司狼君が好きなんだ。』 (いきなりそんな風に、考えられるわけない・・・) どうして今まで友達だったのに、いきなりこんなことを言うのか。 『・・・友達でいてくれ・・・』 半ば呆然と返した言葉は、どこかで聞いたような台詞ではあったが、他に言いようはなかったと思う。 今の関係を保ちたい。それ以外の答えなんてあるはずがない。 (分かってくれたのかなあ・・・) 『ほら見ろ、お前がでしゃばるから。』 『それは桃生先輩のほうでしょう?』 『お前が引っ込んでいれば、今頃神威は俺のものに』 『その台詞、そっくりそのままお返ししますよ。俺一人で告白してたらすぐに・・・あれ?』 『神威やったら逃げたで。』 (逃げるんじゃなかった。) 激しい後悔に襲われながら、神威は寮を出た。 しかし、昨日はどうしていいか分からなかったのだ。 いや今も、どうしていいかなど分からないのだが。 とりあえず、あの二人が昨日のあの返事で納得しているとは思えない。 「あ、神威さん、空汰さん、おはようございます!!」 寮の門をくぐったところで出くわした明るい挨拶は、女子寮に暮らす譲刃のもの。後ろに嵐もいる。 4人はいつもこの時間に集まって、一緒に登校するのだが。 「神威さん、もてもてですね!」 今朝の話題はやはりこれだった。 もういいよそれは、と言いたい所だったが、相手が譲刃なので言うに言えない。 しかしこの様子だと、すでに学園中に広まっているのではないだろうか。気が重い。 「それで、女子寮ではどっちが優勢なんや?」 「やっぱり封真さんでしょうか。でも、瀬川先輩っていう人も結構いましたよ。多分、半々くらいです。」 などと楽しそうに話す二人の隣で、嵐が送ってくれる同情の眼差しが痛かった。 と、その時。 「神威、」 キキッと、一台の自転車が4人の横に止まる。 「乗っていかないか?」 そういって荷台を指したのは言うまでもない、騒ぎの原因の一人、封真だ。そこはいつも妹の小鳥を乗せている場所。おそらく、一度学校で小鳥を下ろしてから、またここまで来たのだろう。よくやるよ、としか言いようがない。 しかし、昨日の今日で二人乗りの登校とあっては、新聞部の餌食になることは間違いない。今度は『カップル誕生!』とでも書かれるのだろうか。 「悪いけど、歩いていくから。」 「そう言うな。乗って行け。」 「いや、ホントに・・」 「しつこい男は嫌われますよ、桃生先輩」 「・・・・・・・・。」 嫌な予感がしなかったわけではなかったが、的中しないことを祈っていた。 神威が振り向くと、景一がいつもどおりの優しい笑顔で封真を威嚇していた。 「おはよう、司狼君。」 「瀬川・・・お前の家、こっちじゃないよな・・・」 「迎えに来たんだ。一緒に行こう!」 空汰と譲刃がうきうきと成り行きを見守る中、神威をはさんでの封真と景一のバトルが始まる。 「どっちがしつこいんだか。」 「何か言いました?」 「ああ、何度でも言ってやる。しつこいのはお前だ、とっとと消え・・」 「あーもう、うるさい!!」 とうとうたまりかねて神威が怒鳴る。 「あのな!!昨日も言ったけど俺は・・・!!」 「分かってるよ。友達でいたいんでしょ?」 「そ・・・そう・・・だけど・・・」 台詞を先取りされて拍子抜けした神威は、この後の論理展開に乗り遅れる羽目になる。 「大丈夫、最初からそんなに簡単にいくとは思ってなかったし、長期戦覚悟だから。」 「は・・・?」 「安心しろ。気持ちなんて変わるものだ。俺がお前を変えてやる。」 「な・・・・・・」 「こうなった以上はオトシタ者勝ちだからな。」 「これからバンバンアタックかけるから、覚悟しててね司狼君♪」 やめてくれ。 真剣にそう思った神威だったが、二人の勢いの前に口を挟むタイミングが得られず。 二人に引っ張られるようにして学園に向かう神威の背に譲刃が一言。 「もてる男って辛いですねっ!」 はい、シリーズもののようです、トライアングルパラノイア。 タイトルだけはごついですけど見てのとおり中身は・・うん(何) 微ギャグ微エロ微シリアスをモットーに(中途半端な) 瀬川君が大好きです。 というわけで、世にも珍しい(?)瀬X神です。 しかし単体で出す勇気はなく、封X神もセットです。 目指せ、瀬川君救済。 BACK NEXT『友達』 |