思春期 思春期は体が性的な面でも成長する時期です。 異性への関心が高まり、男女の体の違いが気になりだしたりする時期でもあります。 と・・・教科書は申しておりますが?(注:エロはありません) 「いないなー。」 一枚のプリントを手に、ファイは廊下を歩いていた。 前回の話から月日は流れ、現在彼は中学3年。 目前に控えた大イベントといえば、やはり修学旅行である。 「おう、ファイ、どないしたんや?」 「空ちゃん先生、黒むー達知りませんか?」 偶然すれ違った担任の空汰先生に尋ねるのは、黒鋼を含む、修学旅行の班のメンバーの行方。今日中にホテルの部屋割りを決めねばならないのに、皆して姿が見えない。 「ああ、旦那やったら、さっき屋上行ったみたいやで?」 「屋上?」 ちなみに旦那というのは黒鋼のあだ名である。教師にまで浸透してはいるが、本人の前で呼ぶものは極一部。ちなみにファイは『嫁』とか『奥さん』とか。小六のとき、足を骨折した黒鋼を、ファイが熱心に介護していたためについたあだ名だ。 「屋上なんかで何してるのかなー。」 「そりゃ、奥さんの目ぇ盗まな、でけへんようなことやろー。」 「例えばー?」 「本人に聞いてみぃ。同じく妻を持つ実としては、滅多なことは言われへん。」 「はあ・・・・・・。」 あだ名がついているだけで、別に夫婦仲になった覚えはないのが。 一方屋上。 「うっわ、胸でけー。さすが、外人は違うな・・・。」 「でもオレはもうちょっと小さい方が・・。こっちのモデルの方がいいな。」 エロ本品評会だったり。皆、年頃の男の子である。 黒鋼を含む数名は、それほど興味があるわけでもないが、一応形だけでも参加。学校とは、社会における他人との付き合い方を学ぶ場である。 と、その時。 「ファイが来たぞ!!」 屋上への入り口付近で、見張りにたっていた一人・浅黄笙悟がそう報告する。 「まずい、隠せ!」 彼には、穢れなき天使でいて欲しい。 皆が持ち寄ったエロ本を隠し終えたとき、校舎から金髪がひょこっと覗いた。 「あ、いたー。何してるのー?」 「別に何も?」 皆、妙に良い笑顔だ。 少し首をかしげて、しかし深く追及することはやめ、ファイは皆の前に持ってきたプリントを広げた。 「今日中にホテルの部屋決めなきゃいけないんだー。うちの班の男子は5人だから、3人部屋一つと2人部屋一つ。結構良いホテルだってー。」 「じゃあ、黒鋼とファイが二人部屋な。」 「あ?」 「いいのー?3人部屋はちょっと狭いよー?」 「いいのいいの。修学旅行くらい、夫婦水入らずで。」 「ちょっと待て、何で俺が・・・」 「黒鋼、ちょっと。」 仲間の一人が、黒鋼を輪の中から連れ出す。 「何だよ。俺らは夫婦じゃねえそ。」 「でもお前ら、隣の家住んでんだろ?」 「それがどうした。」 「だったら、隣のベッドで寝るのも平気だろ?」 「・・・あぁ?何いってんだ、お前。」 「だってよく見ろ!ファイは美人だ!!そこら辺の女子なんか目じゃない!女子の体も未成熟なこの時期、下手したらファイのほうが色っぽいじゃねえか!!」 「あのなあ・・・・・・」 確かに否定する要素は何もないが(いや、待て) 「あいつは男だぞ・・・。」 「そう、それなんだけどな、」 「黒みゅー、お土産もう決めたー?」 「一日目から買うもんじゃねえだろ。」 「荷物はホテルに置きっぱなしだから、邪魔にはならないでしょー?」 ちなみに旅行先は沖縄でございます。 「あ、これ可愛いー。お父さんへのお土産にしよー。」 到着後、首里城やらひめゆりの塔やら、目ぼしい観光スポットを巡り、一行は宿泊先のホテルへ。明日からは二日間マリンスポーツを楽しみ、最終日にまた少し観光をして帰るという、3泊4日の沖縄旅行。 その初日の夕食後、黒鋼はファイに引っ張られてホテルの土産物売り場へ来ていた。 そしてファイが手にしたものを見て眉を顰める。それは、随分と可愛らしいシーサーのぬいぐるみ。 「あの親父はそんなもんが好きなのか?」 「ううん?こういうのを抱いてるオレが好きなの。」 「・・・・・・」 そういえばファイの部屋の窓辺には、いまだに白い猫のぬいぐるみが飾ってある。あれも父親の趣味だろうか。 もう3年の付き合いになるが、この親子はいまだに理解不能だ。そして父親と黒鋼は、いまだにいがみ合っている。 「黒りん、知世ちゃんと蘇摩さんには、何買ってあげるのー?」 「ちんすうこうでいいだろ?」(*沖縄名物のお菓子です) 「食べ物だけー?色気ないなー。」 「うちの女どもには十分だ。あ、これなんかもいいんじゃねえか?紅いもクリーム、パンに塗ってお召し上がりくださいだと。」 「・・・それ、近所のスーパーで見たことあるよー?」(*実話です) 食べ物しか見ない黒鋼を引っ張って、ファイは貝殻などが置いてあるコーナーに移動する。 「もっとアクセサリーとかさ。あ、これなんかどう?蘇摩さんに似合いそうー。知世ちゃんにはこんなのが可愛いかも。」 「じゃあそれで。」 「ちょっとは自分で考えようよー。」 苦笑しながら物色を続けていたファイの目が、ふと一点で留まる。 そこにあったのは、綺麗な青い巻貝のブローチ。 「んー・・・これも買っていこうかな。」 「それも親父の趣味か?」 ファイの手元を覗き込んで黒鋼が溜息に近い台詞を漏らす。ファイの目の色に似た貝は、確かに似合わないことはないだろうが、さすがに少女趣味が過ぎる気がする。訊かれたファイは少し笑って、 「これはオレがあげるのー。お父さんじゃなくて女の子にねー。」 「・・・・・・。」 少し目が点になった。 (女がいるのか・・・。) 彼女がいるという話は聞いたことがないので、友達という線が濃厚だが。とにかく、ブローチをあげるとなると、そこそこ親しい仲かと思われる。 (じゃあやっぱり、違うだろ・・・。) 思い返すのは、旅行前に屋上で言われた一言。 『あいつほんとに男か?実は女じゃねえのか?二人部屋にするから確かめてくれよ。』 思春期とは、異性の体の興味を持ったりする時期です。 しかしこの学校の男子どもは、同性であるはずのファイの体が気になるらしく。 翌日、海で昨夜の経緯とファイは男だという報告をしたところ、 「つまり、確実な証拠を見たわけじゃないんだな?」 と返された。 「証拠・・・?」 「別に全部剥げとは言ってない。上だけで良い。胸がなかったって言われたら俺たちも信じる。」 つまり服を脱がせろということ。 「何で俺がそこまでする必要があるんだ!?」 「同室だろ?部屋風呂覗くでもOKだ!」 「変態じゃねえか・・・。大体、そんなに気になるなら本人に直接訊けば良いだろ。どっかで泳いでるんじゃないのか?」 「いや、浜辺で女子に混じってビーチバレーを楽しんでいる。」 言われて砂浜に目を向けると、確かにビーチバレーを楽しむ女子の中に、まぶしい頭が一人。金髪が日の光を反射しているのだろう。ファイの上半身はパーカーで隠れている。 「泳がないのか、あいつ?」 「脱がないしな。」 「お前ら、いい加減そこから・・・」 「訊いたんだ。脱がないのかって。そしたら、『日焼けしたら悲惨だからー』って。怪しいだろ!!?」 「どこが。」 ファイの白い肌では、日焼けしたら火傷のように赤く腫れるに違いない。ホテルの部屋を出る前に、手足に日焼け止めを塗っていたのを覚えている。 「脱がないのはまあ良い。泳がないのが怪しいんだ。」 「どう怪しいんだ。」 「あれだほら、月に一度の女の病。」 「・・・・・・。」 保健の授業でちらっと習った覚えがあります。 「そんな馬鹿な話・・・」 「でも今ちょっと疑っただろ?というわけで任せた!旦那なら服を剥いだって問題にはならん!!」 なると思います。 が、 (確かに気になる・・・。) 「黒ちゅー、オレの顔に何かついてる?」 自分の方をじっと見ている視線に気付き、ファイが青い瞳を黒鋼に向ける。 「・・・・・・何も。」 誤魔化すまでの間が長すぎる。しかし深い追及はされなかった。 「ふーん・・・?じゃあ、先にお風呂はいっていい?」 「・・・・・・ああ。」 風呂。チャンスだと思った。 (だからってどうするんだよ!!覗くのか!?あくまでも戸籍上は男になってる奴の風呂を!!?) 風呂場から、シャワーの音が漏れてくる。なんと居心地の悪い空間。 黒鋼が一人悶々と頭を抱えたとき、部屋のチャイムが鳴った。 「よお、ウノやろうぜ!あれ、ファイは?」 「風呂だ。」 「・・・・・・・。」 部屋を訪れたのは、同じ班のメンバー、男女混合6人。つまりファイ女説を打ち出した3人も居る。 「気になるならお前等が自分で覗け。」 「ちょっ、覗いてホントに女だったらどうするんだよ!?」 「じゃあ、女子に覗いてもらうか?」 「それで男だったらどうするのよ。私達は良いけど、ファイ君がショック受けるわよ?」 風呂場のファイには聞こえない程度に声を抑えて、ぎゃあぎゃあと言い合いが続く。 やがて、ぽんと手を打ったのは、女子メンバーのプリメーラ。(超売れっ子アイドル。ちなみにこれは芸名。) 「荷物を調べれば良いのよ。」 「荷物・・・?」 「ファイ君が女なら入ってるでしょ?女物の下着とか、その他、女でしか持ち得ないものが。」 「なるほど!!」 「何がなるほどー?」 「・・・・・・!!!!!」 不意に背後から聞こえた声に、一同すばらしい反射神経で後ろを振り向く。 そこには天使顔負けの微笑を浮かべたファイがいた。しかしオーラは、悪の帝王も尻尾を巻いて逃げ出すと思われる。 「あの・・・ファイ、これは・・・」 「誰が女の子だって?オレ、これでも一応、15年間男やってきたんだけどなー。」 「いや、だって、その・・・」 「証拠!証拠見せてくれよ!!」 「脱げってコト?」 「いや、別に全員の前じゃなくても・・・何なら旦那と二人きりにするから・・・」 「黒むーも疑ってるんだー。」 「いや・・俺は別に・・・」 半眼で睨まれた。そして呆れたように溜息を漏らされる。 「黒むー、6年生のとき、川に落ちたでしょ。」 「あ?ああ、そんなこともあったな。」 「お風呂、一緒に入ったよね。」 「・・・・・・あ。」 「女だったー?」 「・・・・・・男だった。」 これにて一件落着。 「でも、元はといえば、お前がややこしいことするからだろ。」 消灯間近までウノで盛り上がり、皆が帰った後、再び黒鋼がその話題を出した。 「ややこしいことー?」 「何で泳がなかったんだ、昼間。」 「オレ泳げませーん。」 ああ、そう言えばそうだった。まだ泳げないのか。 「黒ぷー、教えてくれるー?」 「ああ、別にそれくらいなら。」 しかし旅行にトラブルは付き物です。 「ほら、下手に力入れんな。勝手に浮くだろ。」 「お、ファイ、今日は泳いでるのか。」 翌日、腰あたりまでの深さの所で、黒鋼に手を持ってもらい足をばたばたさせているファイに、班のメンバーとビーチボールで遊んでいた笙悟が声を掛けた。 「うん、せっかく沖縄まで来たし、ちょっとくらい泳げるようになりたいしねー。」 今日は、脱いでも大丈夫なように背中まで日焼け止めを塗ってらい、平らな胸を晒している。これで、女だという邪推をする者も消えるだろう。まあ、胸もなければ筋肉もないが。 「むしろ中性的だよなぁ。」 「またそんなこと言うー。ちょっとは気にしてるんだよー?」 「ああ、悪い。ま、じゃあ、旦那と幸せにな。しっかり泳げるようにしてもらえよ。」 「旦那じゃねえって・・・」 「あははー、じゃあ行こっか、旦那様v」 ファイが黒鋼の顔を覗き込んだときだった。 「うわ、笙悟、行ったぞ!!」 「おっと・・」 不意に飛んできたビーチボールを無理に打ち返そうとした笙悟が、黒鋼の背中にぶつかり、 「わっ、」 「っ・・・!」 がつっと、鈍い音が頭に響いた。 水音が響く。しかしここは海、それほど目立つわけではなく、注目を集めることはなかった。 「大丈夫か!?」 「って・・・」 「いったーい。歯がぶつかったー。」 黒鋼がファイを押し倒すような形で転倒した二人。海面から顔を出すときは、二人で口を押さえていた。今の鈍い音は、歯と歯がぶつかった音らしい。と、いうことは。 「うわ、お前らキスじゃねえのか、それ。」 「ああ!?」 まさかこんなどこかの漫画のような、偶然に見せかけて明らかに作者が狙いすましたキスシーンが今時存在するとは。 「わー、チューしちゃったねー。どーしよー、黒たん。」 「・・・・・・・・・・・・」 「黒たんー?」 返事がないのを不審に思い覗き込むと、物凄い勢いで顔を逸らされた。 その頬が、少し赤い気がしたのは、日焼けのためだけではないと思う。 「うわ、黒むー、ひょっとして初チュー!?」 「うるせえ!そんなわけねえだろ!!」 そう言ってくるりと背中を向けてしまう黒鋼。 「ちょっと待ってよー。泳ぎ方教えてくれるんじゃないのー?」 「もう知らねえ!一人で勝手に泳げ!!」 そしてざぶんと水に潜り、泳いで行ってしまう。これでは追いつけない。 「ふられちゃったー。」 「可哀想になー。」 笙悟が笑いを噛み殺しながら頭を撫でてくれる。 水中ビーチバレーは一旦中止らしく、皆何があったのかと寄ってきた。 「なんだよ、キスしたって?」 「黒鋼、ファーストキスだってよ。」 「うっそー、かわいそー!!」 「いや、相手が奥さんだから良いだろ。」 こうして一瞬にしてファーストキス事件は仲間内に広がる。きっと夕食時にでも、黒鋼は散々からかわれる事になるだろう。 「で、奥さんとしてはどうよ、だんなのファーストキスを奪った感想は?」 「感想って言われても・・・」 (あれ・・・?) 急に顔が熱くなった様な。 あんな形だったから、キスの実感なんてわかなかったが、 (そっか、キスしたんだー・・・) だからって、このドキドキは何ですか。 思春期は、体が性的な面でも成長する時期です。 異性に興味を持ち始め、異性に好かれたいという想いが強くなる・・・はずですが? (ちくしょう、何だこれ・・・) (うわあ、何だろ、これ・・・) もう一波乱、ありそうな予感である。 =後書き= いい加減にしなさいと言われそうな・・・。文章になってませんね。 ここで世間の常識なんて通用しませんとも。 はい、中学生になりました。いきなり修学旅行で失礼します。 チラッと出してみました、笙悟君とプリメーラ。中学生時代のお友達です。 風呂を覗けといわれて、『私達はいいけど』と言ったすごい女子がいますね。 もう一波乱ということで、修学旅行後編は『初体験』(そのまんま)と銘打って地下帝国で公開です。 ちなみに雪流さんは沖縄に行った事がないので、想像と話の都合で書かせていただいておりますが、紅いもクリームは兄がお土産に買ってきたもの。本当に近所のスーパーで売ってました。 ついでに雪流さんは女子校育ちなので、男女共学の雰囲気がいまいち分かりません、すいません。 復習:今回の(雪流さん的)萌ポイント『アシュラパパ』『思春期』『初チュー』『オレ泳げませーん』 予習:次回、裏ですから。隠し通路をお探しください。 <純粋な子供でいたいですか?> <純粋さなんて遠い日の過去ですか?> |