嵐を呼ぶ年賀状


新しい年が明けて正月元旦。普段ハチャメチャな事ばかりやってる割に、伝統行事にはうるさい侑子理事長から年賀状が届いた。
「何考えてんだあの女!!」
その年賀状に印刷されていた柄を見て、黒鋼は思わず声を荒げた。
いつ隠し撮りされたのか、自分とファイが唇を重ねている写真。二人の頭にはねずみの耳が描かれ、ご丁寧に尻尾までつけられている。そして二人の頭の上に「ちゅっv」なんてかかれているのは、今年の干支のねずみの鳴き声に掛けてあるんだろうけれど。
背景は加工されて現場はどこかは分からないが、ファイが白衣を着ていることから、そこが学校内のどこかであることは明白。ちなみに、心当たりは化学準備室だ。体育準備室では、この角度に光が当たらない。
なんてことを冷静に分析している場合ではなくて。
「黒むー、どうしたのー?」
玄関の怒声を聞いて、ファイが部屋の奥から出てきた。そして、黒鋼の手にあった年賀状を見て、顔を赤らめる。
「何て年賀状作ってるの黒むー!!」
「俺なわけがあるか!!」


差出人の名前もしっかり書かれている以上、ファイの誤解は簡単に解けて、二人はコタツに戻って改めてその年賀状を見る。
「まったく、どこから隠し撮りしてやがったんだ!」
「ほんと、アングルもばっちりで良く取れてるねえ。」
「感心してる場合か!」
一体何人に送ったのだろうか、この写真がプリントされた年賀状。教師全員と親しい生徒達には出さなきゃねーと言う台詞を聞いてしまった記憶があるので、下手をすれば100枚くらいはばら撒かれているかもしれない。いや、これは自分達専用の柄だと信じている。信じてはいるが。
「!!おい、お前の家にも届いてるんじゃねえのか!?あいつに見られたら・・!」
「ユゥイー?それは大丈夫かもしれないよ。」
「?旅行でもしてるのか。」
「ほら、このはがきの表面ー。」
ファイが黒鋼に見せたのは、宛名が印刷された側。ファイは冬休み前に「年末年始は自宅で過ごします」と宣言した覚えがあるのだが、何故か宛名は黒鋼とファイへの連名になっている。
「年越しはここで迎えてるって見抜かれてたみたいー。」
「・・・・・・」
それはそれで頭が痛い。

とりあえず侑子に電話を掛けてみる。時間は午前10時過ぎ。いくらなんでももう起きている頃だろうと思ったら、すでにかなりの酒が入っていると思しき声が返ってきた。
『はーい、あけおめー♪』
いや、もしかしたら徹夜で飲んでいたのかもしれない。
「あけおめじゃねえ!何考えてやがんだ、あの年賀状!」
『黒鋼先生、お正月だからってテンション高すぎよー?』
「うるせー!!!」
話が進みそうにないので、ファイが電話に出る事にした。やっぱりそこにいたわねと茶化されて、一通り新年の挨拶を交わして、スムーズに本題に移る。
「侑子せんせー、あの年賀状、オレ達以外には出してませんよねー?」
『うふふー、心配?』
「それはもうー。」
『安心しなさい。関係者にしか出してないわ。貴方達の事を知らない人には届いてないからv』
と言う事は、送られていたとしても数人だろう。ばれたとしても郵便屋さんくらいということだ。

一体何人に二人の仲がばれているのかは、黒鋼とファイの想像を軽く超えているのだが、それはそれ、知らない事は良いことで。

「知らなきゃこんなの届かなかったのに。」
ファイと同居中の自宅で一人、ファイ宛と自分宛の郵便物を仕分けしながら、侑子からの年賀状にユゥイは溜息を零した。黒鋼とファイのキスシーンの年賀状。二人の仲は知っていたことではあったが。
ファイたちと時をほぼ同じくして侑子に電話すると、『貴方なら知ってるから問題ないと思って♪』と明るく返された。
知っているけれど。頭では分かってるけれど。どうしても心中は複雑なのだ。
日本で過ごす初めてのお正月。話に聞いていた紅白歌合戦もファイと二人で観戦するものと当然のように思っていたのに。ファイが黒鋼の家にお泊まりに行ってしまって、一人きりで新年を向かえて、一人きりで二人分の年賀状を分けている。
「何やってんだろう、オレ・・・」
侑子からの年賀状は、自分への一通だけだった。ファイの分は、黒鋼の家に出したらしい。さすが、と言うべきだろう。今頃黒鋼の家には、黒鋼とファイの名前が並んで書かれた年賀状が届いているはず。

ファイの隣は、自分の居場所だったはずなのに。

溜息と共に手に取った年賀状は、黒鋼からのものだった。宛名は、ファイと自分の連名になっていた。
「自分で奪っておいて・・・無神経な人だね。」
彼の居場所を当たり前のように与えられる。見下されてる気分だ。
黒鋼はきっとそんなつもりはないのだろうけれど、その年賀状をどこかに捨ててしまいたいくらいの衝動に駆られた。けれどそれはファイと自分への連名になっていたから、ファイに断りもなく捨ててしまうわけにも行かなくて。
少し悩んで、ユゥイは結局、それをファイ宛の年賀状の山の中に入れた。

できることなら、差し出されたその場に居座れるくらい、無神経になりたい。



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ブログで行き当たりばったり連載をしておりました堀鐔学園シリーズです。
行き当たりばったりなため、話の流れが悪かったり、辻褄合わなかったりするかもしれないけどそこはご愛嬌。
メインカップリングは黒鋼Xファイ+小龍Xユゥイです。
ちなみにここで話題になってる年賀状は、イラストコーナー>ツバサ>『2008年年賀』でご覧いただけます。
それではよろしくお付き合いくださいませv


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