「王様、王様!」
幼い王子が扉を開けて駆け寄ってくる。王は、読んでいた書物を置いた。
「どうしたのー?もう今日のお勉強は終わった?」
「はい!だから、またあのお話を聞かせてください!」
「人に恋をした、死神のお話かな?」
「はいっ!」
「君は本当に、あの話しが好きだねえ。」
王は、優しい笑みを浮かべて、王子を膝に抱き上げた。
「それじゃあ始めるよ。死神界のルールでは、死神は無闇に人間界に滞在してはいけないことになってたんだ。けれど、それにはいくつか例外があった。そのうちの一つが、」
「死のノート!」
「そう、よく覚えてるねー。」
偉い、偉いと、王は王子の頭をなでる。
「死神は、人を殺すのに使う死のノートを人間に渡すと、そのノートの所有者となった人間に憑いてなくちゃいけないっていうルールがあるんだ。だからその死神は、わざとノートを人間界に落として、人間に拾わせてみる事にしたんだ。その死神は、人間にとても近い姿に生まれてしまって、死神界では仲間外れにされてた。だから、彼はずっと人間に興味を抱いていた。人間ってどんな生き物なんだろう。人間なら・・・人間なら、こんな姿をした自分の仲間になってくれるんじゃないかって。」
王子はもう何も口を挟まずに、続きを促すように瞳を輝かせて王を見上げている。

物語の始まりは、死神が落とした一冊のノート。
「そのノートはあるお城のバラ園に落ちて、そこを歩いていた王子様に拾われた。」




死神説話




セレス国は、西の大陸の片隅に位置する小さな国。政治は国王を中心に行われ、国民の殆どは唯一の神を祀る宗教を信仰している。小さいながらも豊潤な国土を護るために近隣諸国としばしば戦争を起こす事を除けば、特筆すべきこともない極ありふれた国である。
王には子が四人いた。全て男子で、年齢順に皇位継承権が与えられている。末の王子は四人の中で最も見目麗しく、政や戦より花や芸術を好む心優しい王子で、名をファイといった。

「今年も綺麗に咲いたねー。」
城のバラ園を散策していた足を止めて、ファイは美しく咲いた赤いバラに手を伸ばした。庭師の腕が良いのだろう。このバラ園のバラは、国内のどこよりも見事に花開く。ここが、王族と、特別に許可された者以外立ち入り禁止なのがもったいないくらいだ。
「少し摘んで部屋に飾ろうかな。でも、せっかく綺麗に咲いてるのに、可哀想かー。」
ファイは、思い直して伸ばした手を引いた。
そのとき、

パサッ・・・

背後に、何かが落下した音を聞く。なんだろうと振り向くと、そこに黒いノートが落ちていた。
「ノート・・・?一体どこから・・・」
空を見上げてもそこには青い空と白い雲だけで、鳥一羽飛んでいない。城からここまでノートを投げるのは難しいだろう。気がつかなかっただけで、最初からそこに落ちていたのだろうか。
「ここに落ちてるってことは、王族の誰かのかなー?」
そうでなくとも、字の読み書きが出来る人間は限られている。持ち主を捜すのはそう難しくないだろう。
ファイはノートを拾い上げてみた。表紙に、白い文字で何か書かれている。
「デス・・・ノート・・・?」
死のノート。気味が悪いなと思いながら、恐る恐る中を開いてみた。表紙の裏に、また文字。
「使い方・・・このノートに名前を書かれた人間は・・・死ぬ・・・。」

「ファイ、」
「っ!!」
不意に背後から声をかけられて、ファイはびくりと体を強張らせた。その反応を、声の主に笑われる。
「すまない、驚かせたか?」
「あ、兄上・・・」
第二王子のアシュラ。知性的な容貌を裏切らない頭脳の持ち主で、政治にも深く関わっている。戦好きだが政治は好まない第一王子より、次期王の座に相応しいのではないかと噂されているほどだ。彼は、他の兄弟の中でも特にファイを気に入り寵愛していた。
「あの、こんなノートを拾ったんです。」
ファイは、アシュラにノートを渡す。アシュラは受け取ったノートに軽く目を通して、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。
「程度の低い悪戯だな。こういう趣味の悪い事をするのは、兄上あたりだろう。誰かがノートを拾ったら、今度は魔女狩りごっこでもするつもりだったのかな。」
「でも、兄上は今、戦で国境に・・・」
「出立前に置いたんだろう?相手にすることはないよ。」
そういってアシュラは、ノートを再び地面に落とす。
「こんな所に置いたという事は、最初から君を狙ったのかな。意地の悪い人だ。」
王族専用のバラ園と言っても、バラを愛でるような王族はファイしかいない。

「そういえば、兄上がここに来るなんて、珍しいですねー。」
「ああ、金のバラが咲いているのが見えてね。」
「え?」
ファイがきょとんとした次の瞬間に、アシュラはファイの唇を奪った。掠めるような一瞬のキスだが、ファイの頬をバラの色に染めるには十分。
「こ、こんな場所で・・・」
「誰も来ないよ。」
「でも・・・城から見られたら・・・」
「バラが隠してくれる。君の美しさに嫉妬して、枯れてしまわなければだけど。」
「あ・・・兄上・・・」
戯曲めいた台詞にファイが更に頬を赤くすると、アシュラは小さく笑ってもう一度ファイに口付けた。今度は長く深く、徐々に激しく。家族が親愛の情を示す域は超えた、完全に恋人同士のそれで。
バラ園に、密やかな吐息が響く。国王の息子二人が、このような関係にあること、絶対に誰にも知られてはならない。けれど、秘密が恋情を更に燃え上がらせる。
「あっ・・・」
ファイの脚から力が抜けた。アシュラが小さく笑って手を差し伸べる。
「相変わらず、感じやすいな。ファイは。」
「す、すみません・・・」
顔を上げたファイの目は涙で潤んで、そこいらの娼婦より、余程扇情的だ。見つめるとぞくりと、背中に電流のような何かが走るのを知覚する。
「そんな顔、私以外に見せてはいけないよ?」
「え?」
アシュラはファイの手に口付けて、自らのマントを地面に敷き、その上にファイを横たえた。
「あ、兄上!これは流石に・・・!」
「大丈夫だと言っているだろう?」
制止するファイに構わず、アシュラはファイの首筋に顔を寄せる。それだけであっさりとファイの体は陥落して、抵抗するだけの力は残らない。
「兄上・・・だめ・・・」
「ああ、そういえば、料理長がここのバラでジャムを作ってくれるそうだ。後で摘みに行きたいと許可を求めてきた。」
「え・・・」
「奥までは入らないように言っておいたから、ここまでは来ないだろう。でも、声は出さない方が良いかもしれないね。」
「っ・・・・・・」
言葉の抵抗もあっさり封じて、アシュラは勝ち誇った笑みでファイの服に手をかけた。



死神は上空から、自分が落としたノートを捜していた。
(この辺の筈なんだがな・・・)
眼下には、広大な緑の園。赤い花が咲いているのが見える。死神界に花は咲かないため、彼はその花の名を知らない。
その花園の中に、何かが輝く。それは、陽の光を受けた金の髪。
(人か・・・二人居るな・・・)
もう一人は長い黒髪の男だ。その二人の脇に、目的のものを見つける。
(あった・・・)
デスノート。たちの悪い悪戯などではない、名前を書けば人が死ぬ、正真正銘の死神のノートだ。彼はそれを、人間に拾わせるために地上に落とした。
(どっちが所有者だ?まだどっちも使ってねえのか。)
死神は、デスノートの所有者となった人間に憑かねばならない。しかしここからでは、どちらがノートを使ったかどうかを確かめるのも困難だ。
(あの状況じゃ、二人とも触ってる可能性もあるしな。どちらかが使うまで待つしかねえか・・・)
死神の姿は、ノートに触れた人間にしか見えない。それ故に所有者となった人間は、他の人間にノートの存在を知られたがらないのが常だと言う。面倒な状況になりそうなら、ノートを回収して、また別に場所に落とそう。そう考えて、死神は一度その場を離れる事にした。



うっすらと目を開けたファイは、青い空の中に、ポツリと黒い点を見つける。
(黒い・・・鳥・・・?)
その姿がどうしても頭から離れなかったのは、今まさに訪れんとする運命を、予感していたからかもしれない。



そのときファイが目にしたのは死神の姿。
その死神、名を黒鋼と言う。




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アシュラ王、全っ開☆どうですか、こんなパロディー。
デスノートの死神設定ってめっちゃ萌えると思うんです。それを上手く組み込んでいけたら良いんですけども。
デスノートを知らない方は原作を読んでいただけると助かりますが、知らなくてもお楽しみいただけるように努力はします。
ノートのルールは原作に従いつつも困ったときは改変捏造なんのそのでお届けする所存です。ちなみに単行本がすでに手元にないのでルールはウィキペディア参照です。
舞台は中世ヨーロッパをイメージしているつもりですが、雪流さん、カタカナ苦手で日本史選択した人なのでイメージもかなり適当です。
あ、物凄くアシュファイくさいですけどちゃんと黒ファイに持っていきます、いつものことです。
そんな感じで全般的に広い御心でお付き合い下さい。よろしくお願いします。




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