A Happy New Year 3

 

 


やがて次の
K駅が近づいて来た。

レンガ造りの駅舎を越すと左側に市役所、そして野球のスタジアムが現れる。

 

中華街の門が見える辺りから人通りが多くなりはじめた。

 

道行く人に見られているような気がして、神威は封真のポケットからそっと手を引き抜いた。

 

「寒くないか?」

 

久しぶりに、封真の声を聞いたような不思議な気がした。

 

「歩いてるから大丈夫」

 

「疲れたら言えよ。おぶってやるから」

 

「また馬鹿にして(怒)。

・・・それより、どこに向かってるかくらい言えよ」

 

「神威に見せたいモノがあるんだ」

 

「見せたいもの?」

 

「ああ」

 

封真は足を緩めずに横目で笑い、道を右に折れた。

 

目の前にはもうI駅が見える。

ついに3駅も歩いてしまった。

それでも目的地には着かないらしい。

封真はペースを落とさず大またで歩き続ける。

 

駅の北側から南側へ出ると、いよいよ人通りが激しくなったが

構わず歩き続け、大きな交差点を渡ると元町商店街に入った。

 

 

多くの店がシャッターを降ろしているというのに、この商店街には大勢の人間が集まっていた。ゲームセンターやファストフード店は若い連中でごった返してさえいる。

 

封真とこうした繁華街を歩くのは、神威にとっては苦痛だった。

 

何しろこの青年は目立つのだ。

 

女の子のグループがすれ違いざまに振り返り「キャッ」とか歓声を上げるし

ガラの悪いヤンキーがガンを飛ばしてくるし・・・(大抵は負けるけど)

そういう奴の後ろをついて歩くのはかなりのストレスだった。

 

「神威」

 

「ん?」

 

「時間が無い。急ぐぞ」

 

腕時計を見ると1140分を回っていた。

 

封真はスピードを速め、スルスルと人ごみを掻き分けて行ってしまう。

その後を、半ば走りながら神威はついていった。

 

「はぐれるなよ」

 

うしろを振り返りえって封真が言った。

 

『大丈夫。お前目立つから』

 

心の中で神威は答えた。

 

 

ふたりは、およそ600メートルの商店街を5分もかからずに抜けてしまった。

このまま真っ直ぐ埠頭に出るのかと思っていたら、封真は右に曲がった。

 

道はまた暗くなり、右側に長く続くいかめしい石壁が現れた。

 

「ここって、墓地だよな。外国人の」

 

「ああ」

 

封真は素っ気なく答えると、壁の低いところを軽々と飛び越えて中に入ってしまった。

 

「封真、何してるんだよ!」

 

「こっちが近道なんだ。来いよ」

 

「来いよって・・・入っていいのかよ」

 

「大丈夫だ」

 

封真は悪びれもせずに奥に入っていく。

仕方なく、神威も壁を飛び越えて幼ななじみの後を追った。

 

墓地の中はいっそう暗く、急な上り坂になっていた。

 

外人墓地という名前の通り、異国で命を落とした外国人の墓が見渡す限りに無言で並んでいる。

何故かピラミッドのような三角形の巨石も置いてある。

 

物珍しげに辺りを見回しながら歩いていると、封真が言った。

 

「こういう墓地を歩いていると、子供の頃に読んだ小説を思い出すな」

 

「どんな?」

 

「タイトルは忘れた。エドガー・アラン・ポーの怪奇小説。

ある日、主人公の少女が目を覚ますと墓の中なんだ。でかい墓で、石造りの小部屋になっている。その中で、主人公は半狂乱になりながら少しずつ衰弱して死んでいくんだ。

実際、西洋の墓は土葬だからそういう事もあるかもしれないよな」

 

この状況でそんな話をされて、神威は血の気が引く思いがした。

 

ここには無数の死体が眠っている。

でも、中には間違って生きたまま埋められ、まさに今、自分の足元で恐怖と飢えで半狂乱になってもがいているかもしれない・・・・

 

「あっ!!!」

 

突然封真が叫んだ。

 

「どうかしたか?」

 

「いかん。時間がない。走るぞ!」

 

「え!?」

 

言うが早いか、封真は長いストライドで走り出した。

 

ちらっと腕時計を見ると、液晶画面は1155分を示していた。

 

神威も慌てて走った。

こんな所を夜中にドタドタと走ったら、死んだ人に不謹慎ではないかとも思ったが、さりとて置き去りにされては堪らない。

昴流のような力を持っていなくて良かったと、思わず天に感謝した。




                  back               4へ