A Happy New Yaer 4 





全力疾走で墓地を登りきるとまた壁が見えてきた。

封真はひらりと壁を飛び越えていく。

神威も続いて、に出ると、そこは山手の瀟洒な街並み。

 

「どこまで走るんだよ」

 

「もうすぐだ」

 

突き当たりには公園が広がっている。

封真は迷わずその公園の中に駆け込んだ。

 

公園は港を見渡す丘の頂きにあり、展望台にはカップルのシルエットがいくつも並んでいたが、封真はそれには目もくれずに走り続け、人気の無い敷地の隅でついに立ち止まった。

 

「ここだ」

 

「ここだ、って・・・ただの生垣じゃないか」

 

息を切らして困惑する神威の目の前で、封真は生垣をかき分けていった。

仕方なく、後をついて生垣の向こうに出ると、

眼下に夜の港が一杯に広がっていた。

 

「5,4,3・・・」

 

断崖に立って、腕時計を見ながら封真がカウントとする。

 

 

「1、ゼロ」

 

 

その途端、港に停泊する船が一斉に汽笛を鳴らした。

 

長く、低く、高く、遠くから、近くから・・・

 

デッキからは花火が打ち上げられ、サーチライトがくるくると旋回して海面を照らし、埠頭では大勢の人間が歓声を上げる。

 

船という船が共に喜び、歌いあい、新年を祝う無数の汽笛が湾に鳴り響く。

 

 

 

「ハッピーニューイヤー」

 

呆然としている神威の後ろから封真が腕をまわし、耳元で囁いた。

 

「封真・・・」

 

息が切れているのも忘れて、神威は音の洪水に浸っていた。

 

「見せたかったものって、これ?」

 

「ああ」

 

顔を後ろに向けると、視線が重なり合う。

 

「・・・お前って、ほんとに・・・」

 

恥ずかしそうに目を伏せて言う神威の手を、封真はぎゅっと握り締めた。

 

大きくて温かい手。

 

 

 

今年初めて会うのが

封真であることが嬉しい。

何年も想い続け、あきらめかけていた願いが、今叶えられている。

 

 

鳴り響く汽笛が、この瞬間の幸せを祝してくれているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて汽笛はひとつずつ鳴り止んでいく。

 

ふたりは無言で、港がもとの暗さと静けさを取り戻していくのをじっと見守っていた。

 

 

先に沈黙を破ったのは神威だった。

 

「でもさ」

 

「ん?」

 

「なんで3駅も歩いたんだ?」

 

封真は苦笑した。

 

「歩きたかったんだ。神威と、夜の街を」

 

神威が赤くなるのが、暗い中でもわかった。

 

「最後はドタバタになっちゃったけどな」

 

くすっと神威は笑った。

 

「これからどうする?」

 

「俺の計画では、江ノ島にでも行って初日の出を拝みたかったんだが・・・」

 

「あ、それ、いいね」

 

神威は後ろに向き直って言った。

 

「でも・・・お前、なんか熱いぞ。熱があるんじゃないか?」

 

「走ったからだよ」

 

「ふむ」

 

封真は神威の額に手を当てて、少し考えた。

 

「じゃぁ、こうしよう。ホテルで一休みして江ノ島に行く」

 

「そんな、高校生なのに・・・それに、一度寝たらもう起きられない」

 

「寝なけりゃいいだろ」

 

封真は笑って神威を抱き寄せキスをした。

 

今年最初のキスだった。

 

神威はそっと封真の胸に手を当てて押し戻そうとしたが、いっそう強く抱きしめられてキスを深められる。

 

 

――あぁ、今年もこうやって封真に振り回されるのかな?

喧嘩したり、笑ったり、怒ったり、つかんだと思った次の瞬間にはまた見失って・・・

 

でも、たとえそうであっても一緒にいたい。

封真と会えなくなる運命なんて、考えられない

どうしても、考えられない

 

 

潮の香りがする風に髪をあおられながら、神威は目を閉じ、愛しい幼馴染の首に腕を回し、強く抱き寄せた。

 

 

              「冬の封神、幸せそうな神威ちゃん」というリクエストで書いて頂きました。
             す・・・、素晴らしい・・・。うちに飾るのがもったいないくらいです・・・。
             神威ちゃん、携帯なんかもらっちゃって。羨ましい・・・!きっと封真は丁寧に使い方まで
             教えてくれるんでしょうね・・・。 見物したいです・・・。
             みすずさんっ!!素敵な小説、ありがとうございましたっ!!!                 


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