Schwarz-Weiss-Mürbeteig どうしてこんな事になったんだろう。確か昼食後に甘い物が食べたくなって、今日のおやつはクッキーにしようと思って、 「あー、卵がないや。小麦粉も足りないかなー。」 「買って来ましょうか?」 独り言にすぐに応えた少年は、しかし見れば刀の手入れ中。 「いいよー、昼寝してる暇人に頼むねー。」 ついでに夕飯の材料も買ってきてもらおうと黒鋼の部屋を訪れると、昼間だというのにベッドに引きずり込まれて、何だかんだと文句を言いながらも、急ぐ用でもないかと、結局快楽への誘いに身を任せた。 「で、何の用だったんだ?」 「んー買い物をーお願いしますー・・・」 満足して服を身に着ける黒鋼に、気だるさを堪えて財布を差し出す。 「買い物ぐらい小僧に頼めよ。」 「小狼君はー剣の手入れ中ー。」 「もう終わってんじゃねえか?」 意地悪そうにそう言って、それでも財布を受け取ると、黒鋼は買ってくるものをメモって出かけていった。マガニャンも買って来ると言っていたから少し掛かるだろう。帰ってくるまで寝ていようと、そのまま黒鋼のベッドの上で目を閉じた。 そのすぐ後だと思う。そんなに長く寝たとは思えないのに、ベッドの軋みと、瞼に触れる温もりを感じたのは。 「くろみゅー・・・?」 もう帰ってきたのかと目を開けて、両手首を押さえる重さが、いつもより軽いことに気がついた。 そして驚愕に目を見開いたまま、現在に至る。 どうしてこんな事になったのだろう。やはり人の親切は素直に受け入れて、買い物を頼むべきだったのだろうか。 「小狼君・・・何で・・・・・」 どうして、上にいるのだ。ファイの手首を拘束して。 「何で、と言われても、」 そう訊かれることが意外だというように、小狼はくすりと笑う。大人びた表情。こんな顔、今まで知らなかった。 「黒鋼さんが出て行っても貴方が戻ってこないから、どうしたのかと思って見にきたら、随分、扇情的な格好で眠っていたので。」 「あ・・・・・・」 言われて初めて自分の姿を思い返す。上半身は黒鋼に抱かれて乱れたシャツのまま、下半身は素肌。 「こっ、これはっ・・・」 「知ってますよ。黒鋼さんと、してたんでしょう?」 「っ・・・・・」 見抜かれている。いや、見抜くなと言う方が無理な話か。 しかし、だからと言って、この体勢の理由にはならない。 「は・・・離して・・・」 「嫌です。おれも、貴方を抱きたい。」 「な・・・に・・・冗談、きついよ・・・?」 「おれが冗談なんて言うタイプじゃないって、知ってるでしょう?」 「で・・・でも・・・・・・こんな・・・こういうものじゃ、ないでしょー・・・」 こんな、無理矢理に。 ファイは何とか小狼の手から逃れようともがいたが、黒鋼の熱心な教え子は、日々の素振りの成果か、予想以上に腕力がある。黒鋼ほどではないにしても、逃れられない。 「こういうものじゃないって?おれは、貴方が好きです。好きじゃなきゃ、こんなこと望まない。」 「そんなこと・・・こんな状況で言われたって・・・」 「大丈夫です。想いは・・・求めてません。」 そう言って、小狼はファイの首に顔を寄せた。 「それどころじゃないでしょう?おれも貴方も。だから、今だけ。」 濡れた感触が、首筋をなぞる。 「っ・・・やっ・・・やだっ・・・!小狼君!」 「心配しないで。跡は付けません。」 「そうじゃ、あっ・・・!」 耳朶をざらりと舐められて、体が反応した。背筋をぞくりと這い上がってくるのは、さっき黒鋼が引き出した熱の名残。 「へえ・・・そんな声出すんですね。」 「やっ・・・やめ・・・オレ、は・・・黒むーがっ・・・」 「黒鋼さんが?」 小狼が一度体を離す。いつもと同じ優しい瞳が、ひどく恐ろしいものに思えて、ファイの体が震えた。 手首を拘束していた手が、片手だけ離れて掌に重なる。そんな所は、とても優しいのに。 「本当は、誰でも良いくせに。」 投げつけられた言葉の冷たさに、思わず息が詰まった。 「しゃお・・・」 「そうでしょう?」 「ち、が・・・・・・」 どうして、そんな、優しい目で。 冷たい言葉を吐くならもっと冷酷な目をして。 そんな目で囁かれたら、凶器のようなその言葉が、正しく思えてしまう。 思い出してしまう。彼を求めた最初の理由。 追われる恐怖と逃げる心労から解放されたくて、一時的にとは言え全てを忘れる手段として、彼を選んだだけ。 繰り返すうちに本当に恋でもしているかのような気になったとしても、それでもただそれだけの事。 「・・・いで・・・」 「ファイさん?」 「くろむーには・・・言わないで・・・」 「ええ、勿論。」 震える声で紡がれた懇願は、同時に許しを与える言葉。 唇が重なる。抗う気力も応える意思も無いまま、押し込まれる舌を受け入れる。 申し訳程度に留められていたボタンを外されて、シャツが大きく開かれた。唇が離れて、首、鎖骨、胸へと降りていく。 「ふっ・・・ん・・・・・・」 「ファイさん、堪えないで。声、聞かせてください。」 片方の突起を指で弄られながら、もう片方を舌先で転がされる。先ほどの行為からまだ冷めきっていなかった熱はすぐそこに集まりだすが、せめてもの抵抗に唇を噛み締めた。けれど、 「そんなことしたら、唇に傷がつきますよ。」 「ふ、あっ!!」 突然、叱るように歯を立てられた。硬く敏感になっていたそこから、全身に電気が走る。 「あ、やっ・・・いたっ・・・小狼君っ・・・」 「はい、すいません。」 「あ・・・・・・」 苦痛を訴えると、きつ過ぎる愛撫はすぐに止まって、詫びのつもりなのだろうか、動物が傷口を舐めるように、今度は舌で撫でられる。 乱暴かと思えば優しい。こんな脅迫じみた方法で犯すなら、とことんまで酷くしてくれれば良いのに。こんな所はいつもの小狼で、拍子抜けする。憎んでも良いくらいの事をされているはずなのに、それさえ出来ずに戸惑わされる。 「うっ・・・あっ・・・なん、で・・・・・・こ、んな・・・」 「言ったでしょう。好きじゃなきゃ、こんなこと望まない。」 返された答えも、酷く遠く聞こえた。 叶わない抵抗と、抗いきれない快楽。そして、耐え難い、罪悪感。 小狼の手が、ファイの下腹部に伸ばされた。そして、確かな硬度を持った中心に触れる。 「っ・・・」 「ファイさん、感じてるんですね。」 「やっ・・・」 先端に滲んでいた液を掬って、小狼はファイに見せ付けるように舐め取る。感じている、確固たる証拠を突き付けられて、絶望と羞恥で視界が霞んだ。両腕で顔を覆う。それも叱るかと思ったが、小狼は其れに関しては何も言わず、しかし中心からは手を離して、さらに後ろに手を伸ばした。 「っ・・・・・・!」 ファイは咄嗟に上半身を起こして、小狼の指から逃れた。 「何ですか?」 「あ・・・・・そ、そこで・・・するの・・・?」 体が震える。 「他にどこでするんですか。慣れてるでしょう?」 「だ・・・けど・・・」 小狼はファイの体を押し戻して、片手で肩を抑えつけ、もう一方の指をそこに押し込む。そして、指先に触れた濡れた感触に、小さく「ああ、」と呟いた。 「これ、黒鋼さんの?」 「っ・・・」 「したばかりでしたね。中、綺麗にしてくれないんですか。」 目元がかっと熱くなる。ファイは逃れようともがいたが、小狼は構わず二本目の指を入れて、少し乱暴とも思える動きでそこを広げた。卑猥な水音が、ファイの耳を犯す。広げられた入り口から、黒鋼の精が零れて肌を伝う。 「や、あっ・・・ん・・・うあっ・・・」 「すぐ出来ますね。時間もないし、丁度良かった。」 「あっ、小・・・狼君っ・・・お願っ・・・そ、こは・・・」 「ここは?」 「ゆ・・・るして・・・く、口で・・・するから・・・」 涙声になりながら懇願する。 だって、黒鋼の部屋で、黒鋼のベッドで、彼のものじゃない手で愛撫されて、言い訳できないほどに感じていて。そこまで許してしまっては、本当に彼に申し訳が立たない。言うつもりはないけれど。 「・・・口でって言うのも惹かれますけど・・・」 小狼はファイの中を侵していた指を抜いた。希望が叶えられたかとほっとするファイに、しかし笑顔で冷たい選択を迫る。 「じゃあ、両方。」 「っ・・・しゃお・・・」 「どうします?」 卑怯だ。こんな時まで、頭の回転が速くて、切り返しがうまい。こっちはもうぐちゃぐちゃで、まともな思考さえままならないのに。 それでも判るのは、黒鋼が帰ってくる前に終わらせなければならない事。両方なんて、そんな余裕は無いだろう事、分かっているくせにと。 「ファイさん、」 「っ・・・」 強く迫るわけではない。けれど、一つしか許さない。冷酷な問いに、涙がこぼれても、答えるしかなかった。 「挿・・・れて・・・」 行為の後も小狼の行動は的確で、さっさと衣服を整えると、部屋を出て、濡らしたタオルを手に戻ってきた。そしてファイの体から、黒鋼との行為の後に、二度目があったことを匂わせる痕跡をすべてふき取る。頬に残る涙の跡、もう乾いているべき汗、小狼との行為で零れてしまった黒鋼の精。 「中は、そのままでいいですよね?」 「・・・・・・・・・うん・・・」 ぐったりと動けないファイは、小狼のするままに体を任せる。その手付きは一つ一つ丁寧で、壊れ物を扱うみたいに優しくて、あんな事をされたのに、怒る気にも憎む気にもなれない。 いや、きっと、そんな感情を向ける理由がないのだ。誰でも、良かったのだから。 「ファイさん・・・」 綺麗に拭いた頬を、新たに濡らす涙に気付いて、小狼が指で拭う。 「そんなに嫌でした?」 「・・・・・・・・・」 「怒ってますか。」 「・・・怒ってないよ・・・・・・悲しいんだ・・・・・・」 思い出してしまった。黒鋼を求めた最初の理由。 「小狼君・・・」 「はい。」 「・・・今回だけだよ・・・」 「・・・・・・おれじゃ駄目な理由は?」 「君は・・・知ってるから・・・」 溺れられない。忘れられない。求めるのは愛情でも快楽でもないから。 だから、またすべて忘れた振りをして、黒鋼の胸に縋る。 「・・・ああ、帰ってきましたね。」 窓の外、まだ少し遠い場所に黒鋼の姿を見つけて、小狼はファイのシャツのボタンを留めた。決して二度目を悟らせないよう、外した数と同じだけ。 「泣いてたら怪しまれますよ。笑えますよね?」 もう一度だけ、ファイの頬を拭う。 「・・・うん・・・」 小さい返事を確認して、ファイを残して部屋を出た。 体を拭いたタオルも片付けてリビングに戻ると、やっと玄関のドアが開いた。 「お帰りなさい、黒鋼さん。」 「おう。」 提げていた買い物袋をキッチンに置くと、黒鋼は室内を見回す。 「ファイさんなら、こっちには戻ってきてませんよ。部屋に居るんじゃないですか?」 「そうか。」 ファイを捜していたことを否定することも無く、黒鋼が向かうのはきっと自分の部屋。ファイは恐らく、ずっと寝ていた振りをして、おかえりーと間延びした口調で黒鋼を迎えて、子猫みたいに甘えた仕草でキスをねだるのだろう。小狼との行為を消すように、その先も求めるかもしれない。そうなるとおやつのクッキーは明日だろうか。 「・・・知らないわけじゃないと思うけど。」 黒鋼の背を見送りながら小狼は小さく呟く。求められる本当の理由、彼だって本当は知っていて、それではあまりにも寂しいから、いつか行為の先に想いが芽生えることを望んで、何も言わないのだろう。自分は、いつかの代わりに今日を望んだだけ。 ただ予想外だったのは、誰でも良かったことを思い出して、ファイが涙を流したこと。 「思ってたより、本気なんだ・・・。」 少し出遅れ過ぎただろうか。でも、まだそれに気付くことを、彼は自分で許せないようだから。 「突き崩す隙はあるかな。」 二度目は無いと言われたけれど、分かりましたとは言ってない。 でもあまり泣かすのも気の毒だ。 とりあえず今日のところはこの辺にして。 クッキーにありつけるかどうかの心配だけしていよう。 女の子s(サクラ&モコナ)は話の都合でお昼ね中です。 小狼鬼畜妄想。彼はやると決めたことはやる人です。 鬼畜って言っても痛くするのが好きとかじゃなくて。 やってる事ひどいんだけど、一応全部ファイさんに求めさせてから、みたいな。 精神的鬼畜?さすが星史郎さんの弟子ですよね。 強姦だけど和姦チックな感じがいいと思う。 ネゴシエイターでも目指すといいですよ。 その巧みな交渉術も私ごときではこれが精一杯なんですけど・・(涙) 鬼畜といえば小狼二号はやることも鬼畜そうで非常に楽しみです。(・・・何が?) 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