鎖月(後)
「あ・・・・・・っ、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
ぐったりと甘い呼吸を繰り返していた神威は、封真の舌が腰を這う感触にびくりと体を強張らせた。
「やっ・・・待っ・・・・・・」
熱を吐き出したばかりの体は、その余韻で小さな刺激にもいつも以上に敏感だ。
その上、封真は的確に、神威が感じる場所ばかりを攻めてくる。
うつ伏せにされているため、背中に回された手は空を掴むことしか出来ず、湧き上がる快感を逃す術がない。
「ん・・・・・・あぁっ・・・・・・」
身を捩るたびに背中を擦る金属の硬質な冷たささえ、今は熱い体への刺激にしかならない。
鎖の音は、ベッドが軋む音以上に羞恥を煽る。
やがて、濡れた感触が双丘を割って蕾に触れた。
「ぁ・・・・・・?」
挿入を予想していっそう体を強張らせた神威は、同時に押し付けられたその感触が、いつもと違うことを感じ取る。
「ふ・・・・・・ま・・・・・・?」
指よりも柔らかいそれは、入り口を二、三度撫でると、ゆっくりと内部へと侵入する。
そして、奥までは進まず、浅い部分だけを犯していく。
濡れた音がいつもより大きい。
そしてやっと、神威はその正体を知る。
(舌・・・・・・?)
「う・・・そっ・・・・・・やっ・・・・・・!」
「動くな。」
「やだっ・・・封真っ・・・・・・!!」
「ここは嫌がってないだろ?」
「あ・・・・・・っ!」
体は嫌がっていない。そんなこと、自分で一番良く分かっている。
それでも、舌を差し込まれる感触は、すぐに受け入れられるものではない。
それなのに、触れられていない奥が、教え込まれた快楽を求めて収縮を繰り返すのだ。
もどかしくてたまらない。
頭がおかしくなりそうなほど。
「ふ・・・・・・、ん・・・・・・っ」
卑猥な水音が耳を汚す。
唾液か精液か、液体が足を伝っていく。
そんなことさえはっきりと認識できないほど、頭の中は滅茶苦茶で。
封真の舌が離れる前に、自分が何かを口走った気がしたが、何を言ったのかまで意識は及ばず。
けれどおそらく、封真自身を求めたのだろう。
舌の代わりに差し込まれたのは、おそらく二本の指。
何の前置きもない挿入だったが、神威のそこは、待ち構えていたように、それを軽く根元まで飲み込んだ。
中で動かされると、絡みつくのが自分でも分かる。
「う、あっ・・・・・・」
「入り口しか触ってないのに、奥まで溶けてるんだな。」
これならもう大丈夫か。
そう呟いて、封真はあっさり指を引き抜き、後ろから神威を抱き起こして膝に乗せると、濡れたそこに自身の昂ぶりを押し当てた。
散々じらされたそこは、神威の意思とは関係なく、それだけで自ら咥え込もうとする。
「がっつくなよ。」
耳元でからかうようにそういうと、封真はゆっくりと神威の腰を下ろしていく。
まだ焦らすつもりらしく、ときには反り返る神威の背に、赤い跡を残しながら。
しかし一度全て埋め込んでしまうと、その後の動きは性急だった。
神威の呼吸など無視して、何度も最奥まで突き上げ、揺さぶり翻弄しては、またぎりぎりまで引き抜く。
「あっ、んっ・・・・・・あぁ・・・・・・っ!」
ひっきりなしに上がる嬌声と、絶え間ない鎖の音。
ベッドの軋みと、接合部の濡れた音。
先程までは羞恥を掻き立てたそれを、判別するだけの理性はすでに神威にはなく。
「あ・・・、あ―――――っ」
何度目かの突き上げの後、中の封真を締め付けながら、神威は二度目の絶頂を迎えた。
『ねえ、お兄ちゃん。お誕生日、何が欲しい?』
それはいつもの境内。小鳥のその言葉で、神威は初めて封真の誕生日を知る。
『封真、誕生日なの?僕も何かあげるっ!何がいい?』
『でも、プレゼントは母さん達がもう用意してくれてるから・・・・・・』
『それはお母さん達からのプレゼントでしょっ!小鳥達も何かあげる!!』
意気込む二人を前に、封真は曖昧な笑みを浮かべた。
『んー、別に欲しい物もないしなぁ・・・』
『嘘っ!今時の男の子なんだから、ファミコンとかローラースケートとか!!』
『小鳥ちゃん、それはちょっと・・・・・・』
小鳥の嫁になると宣言した神威でも、さすがに子供の経済力ではそんなものは買えないという常識はある。それでも、何か贈りたいという気持ちに変わりはない。
『封真、本当に欲しいものないの?』
『あぁ、気持ちだけで十分だ。ありがとう。』
『お兄ちゃんに欲しいもの訊いても駄目なの!』
ばんっと小鳥が机を叩いたのは、その日の翌日。勿論神威と二人の時に。
『お母さんが言ってたの。お兄ちゃんはブツヨクニトボシイから、何が欲しいなんて訊かずに、贈りたいものを贈りなさいって!小鳥達があげたいものが、お兄ちゃんの欲しいものなんだって!』
『そうなんだ。』
その後二人で考えたのが願い事券。
幼い二人は、この券の欠陥に気付かなかった。
願い事券は所詮、封真が願いを言わなければただの紙なのだということ。
ありがとう、と嬉しそうに受け取ったきり、いつまで待っても封真が券を使う様子はなく、小鳥が耐え切れなくなったのがパーティーの一週間後。
『願いって言われてもなぁ・・・』
二人(主に小鳥)に詰め寄られて、腕を組んだまま苦笑を浮かべる封真の口からは、それでも願いは出てこない。
『本当に、今の所欲しいものはないから。』
『欲しいものじゃなくていいのっ!願い事券なんだから、肩叩けとか、ジュース買って来いとか!!』
『そういうの、願い事って言うか・・・・・・?』
『でも封真、何か一つくらいないの?』
『そうだなあ・・・・・・』
今まで黙っていた神威にまでそう言われて、さすがに何か一つくらいは願わないと悪いとでも思ったのだろうか。封真は今までより真剣な顔で考え込み、
『じゃあ、二人がずっと俺の側にいてくれますように。』
(あー、そうだった・・・・・・。)
遠い日の夢から覚めて、神威は重い瞼を押し上げた。隣の封真はまだ夢の国の住人。
腰の痛みに顔をしかめながら、それでも何とか上半身を起こす。
おかしな抱かれ方をしたせいで、今日は肩まで痛い。
動かせばマシになるかと思い、左肩を大きく回すと、手首にぶら下がっていた手錠が音を立てた。
片手しか外してくれなかったようだ。
外してくれたのも、あの後体勢を変えて向かい合ったときに、縋り付いて来る手がないと物足りない、という理由だった気がするが。
「昔はあんなに可愛かったのに。」
結局、当時の封真が口にした願いはあの一つだけ。
まさか今になってこんな願いが出てこようとは思っても見なかったが。
券が10枚全て残っていたのは、小鳥があれを願いとして認めなかったからだ。
『そんな当たり前のことは、わざわざ願わなくていいのっ!!』
(あの一言が、妙に嬉しかったんだよなあ・・・)
そんなことを思い出しながら、神威は静かにベッドを降りた。
服を着るのは面倒で、肩からシーツを羽織っただけの格好で部屋を見回す。
探し物は、封真の勉強机の上にあった。
10枚の願い事券。一枚だけ半分に折ってあるのは、使用済みの印なのだろう。
その誠実さに一応感心しながら、神威は机の上にあった鉛筆を手に取る。
「小鳥には悪いけど・・・小鳥も覚えてないだろうし・・・・・・」
二人で作った券の内容を、一人で勝手に変えること。断る必要はないと思う。
きっと、残り9個の願いをかなえるのも神威なのだから。
クレヨンの字の下に書く文字は、
「有効期限」
例えば貰ってから一年間を有効期限にすれば、この券はもう使えない。
(悪いのは、純粋じゃなくなった封真だからな。)
背後のベッドで眠る封真を一度だけ睨みつけて、神威は再び机に向き直る。
けれど、せっかく見つけた券を、完全に使用不能にしてしまうのは、少し寂しい気がして。
「一ヶ月・・・くらいなら・・・・・・」
ふと、そんな考えが頭をよぎった。それくらいなら、我慢してもいいかと。
使いきれなかった分は、また思い出として、しまっておけばいい。
しかし、神威の考えは基本的に甘い。
「一ヶ月か。三日に一回。まあ、無理な話じゃないな。」
「・・・・・・!!!」
最後の券に一ヵ月後の日付を書き終えた途端、突如後ろから聞こえた声に神威が振り返ると同時に、後ろから伸びた封真の手が願い事券を取り上げる。
「封真っ、いつの間に・・・・・・」
「一ヶ月、頑張れよ、神威。」
「〜〜〜〜〜っ!!」
どうせ一ヶ月では使えない、などと、どうして思ったのだろう。
封真なら、その気になれば、10日もあれば使い切るに違いない。
書き加えるべきは、有効期限ではなく、「未成年の育成に悪影響を与えるような願い事は受け付けられません」くらいの利用規約だった。
「返せっ!」
「返せも何も、俺のだろ?」
「そうだけどっ・・・・・・そうじゃなくてっ!!」
「ほら、暴れるとまた。」
「う、わっ・・・・・・!」
どさっ
身にまとっていたシーツに足を取られて、神威は封真を押し倒す形でベッドに転倒。
今回は、封真に謀られた気がする。
「何だ、さっきのじゃ足りなかったか?これはお前から来たんだから、ノーカウントでいいな?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
今日という日は、長い一ヶ月の始まりに過ぎない。
神威を嘲笑うかのように、手錠の鎖が小さく音を立てるのだった。
13579HIT御礼小説でした。
リクエストはみすずさんから「封ニイのペットになって苛められる神威ちゃん」
すいません、ペットっていうのが抜けてることに今気づきましたが、
精一杯苛めてみたつもりです・・・。いかがでしょう。
大変愉しく書かせて頂きました・・・・・・(腐)
みすずさん、素敵なリクエスト、ありがとうございましたvv
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