March 15






ホワイトデー。それはバレンタインデーのお返しをする日。
こんな旅をしていれば、バレンタインデーを過ごした世界でホワイトデーも迎えると言うことはめったにないことだから、数が合わなくても良いから、3月14日にはとりあえずお返しをしようと。
言い出したのは紅一点の姫君。ファイが男女関係なく全員に配ってしまうので、彼女もホワイトデーは返す側。小狼との間にやり取りがあるのかは不明だが、少なくとも黒鋼とサクラの間には何もない、と言うことに今更ながらに気づいてしまったがまあそんな事はどうでも良い。
黒鋼は、今回のホワイトデーは、ファイに仕返しをすると決めていた。『お返し』ではなく、『仕返し』。
(バレンタインの時はくだらねえことしやがって。焦らされる身にもなりやがれ。)
前回のバレンタイン、ファイはチョコを用意していながらわざと黒鋼には渡さないという悪戯を敢行した。本人はもっともらしくていじらしい理由をつけていたが、あとになって考えて見ればあれは悪戯以外の何物でもなかったと思う。
それはともかくお前焦れてたんだ!?なんていう突っ込みは置いといて。
今回のお返しは、わざと渡さないつもりらしい。

しかし今日はもう3月15日。の、夕方。いまだファイからは何も言ってこない。昨日から顔をあわせる機会は何度もあった。小狼達がお返しをしている横を、知らん顔をして通り過ぎてみたりもした。
(何で何も言って来ねえ・・・・・・)
これは由々しき事態だ。いらないのだろうか。わざわざ用意したのに。と言うかひょっとして、こちらの想いなど迷惑なだけなのだろうか。
(いや、そんなことは・・・ねえ・・・よな・・・)
恋愛イベントは男をマイナス思考にするらしい。最初はくだらないと言っていた黒鋼も、いつの間にかすっかり踊らされている。

そして時間は過ぎて夕飯も終わり、順番に風呂に入り、皆それぞれの寝室へ。今回は一人一部屋。大人も子供も大人しく、
(寝て堪るかあああああ!!)
もう我慢の限界だ。
ばんっ!
黒鋼は近所迷惑も考えずにファイの部屋の扉を勢いよく開けた。今まさに布団に入ろうとしていたファイが驚いた顔をする。
「黒みゅー、夜這いは良いけど(良いんだ・・)もうちょっと静かに入ってきたほうがー」
「違ーう!そんなことじゃねえ!これだこれ!いい加減に何か言って来い!」
そう言ってファイの前に突き出したのは、青いリボンで飾り付けられた淡い水色の箱。
「・・・あー、ホワイトデーの?くれるの?ありがとーv」
にっこり。
違う。そんな反応が欲しかったんじゃない。好きなこの笑顔が嬉しくない男と言うのも珍しいが。
「何も思わなかったのか!?今回はくれないのかなーとか、実は好きじゃなかったのかなーとか!」
「え?別にー?もともと黒様にこういうイベント期待してないしー。くれたら嬉しいなーくらいで。」
心構えの問題。
「それにさ、バレンタインなんて特別な日じゃないよ、きっと。いつも色んな形で表してる好きを、その日はチョコレートの形にして見ましたってだけで。告白するには良い日だけど、オレ達にはそんなに、じゃない?」
「・・・・・・・・。」
「だからホワイトデーだって、好きだって思っててくれれば、それで充分なんだよ。」
でもこれはありがとう、と、ファイは黒鋼の手からプレゼントを受け取る。自分のために町を回って熱心に選んでくれたプレゼントだ。嬉しくないはずがない。

ちなみに熱心に選んでいたと言う情報は昨日サクラから。つまり事前情報があって、どうせバレンタインの仕返しでもするつもりだろう、意外に根に持つタイプだな、どうせだからちょっと良い感じの台詞でも用意しておいて感動させてやろうか、という企みがあったことなんて、黒鋼が知るはずもなくファイが気取らせるはずもない。

「・・・ついでに夜這っていって良いか。」
どうやら可愛く見えたらしい。作戦成功だ。日本国忍者、まだまだ甘い。
「どうぞー。昨夜はホワイトデーなのに一人寝で寂しかったから、今夜はずっと傍にいてね。」
でもきっと、こういう所も愛してる。
ファイは、贈られたプレゼントを抱きしめながら、黒鋼に一度目のキスを返した。








February 15のおまけ版。
おあずけ返しを食らわせるつもりがうっかりそのまま返される黒鋼さん。我慢の足りない子です。
15シリーズは黒鋼さんをとことんへたれに。そしてファイさんをとことん黒く。
ファイさんはきっと最後の台詞すらも台本どおりですよ。こういうときにはファイさんのほうが一枚も二枚も上手でいいと思う。
夜這う前に勢いよく明けられたドアが開きっぱなしのような気がしてならないので鍵は閉めにいって下さいね。




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