優しい嘘
他人に優しい嘘 自分に優しい嘘
皆に優しい嘘 誰にも優しくない嘘
これは誰に優しい嘘?
『好き』がどんな気持ちか、知らなかったから
「僕は誰に殺されるんでしょうね。」
その言葉は、死への憧れのようだと思った。
同じことを思ったのだろうか。彼女は小さく笑った。
白い雪に飛び散った血よりも紅い唇で。
「貴方が一番好きな人よ。」
そのときから、『好き』は、『殺されたい』になった。
『好き』がどんな気持ちか、知らなかったから
出会いはその三年後。
瞳が綺麗な少年だった。
そしてそれ以上に、心が優しくて純粋で誠実で
この子になら、『殺されてもいい』かもしれないと。
「だからもし君とまた会えたら、僕は君を『好き』になるよう努力してみますよ。」
『殺されたい』と思えるように、一年間の賭けをした。
「一年たって、君を特別だと思えたら、君の勝ちだから殺しません。」
「でもやっぱり君を特別だと思えなかったら、そのときは君を殺します。」
命懸けの賭けだった。
『好き』がどんな気持ちか、知らなかったから
それが今から七年前。
今の気持ちは『好き』だろうか?
殺されるなら彼がいいと思った。
綺麗な瞳と心のまま、成長した少年に。
けれどそれは、『殺されたい』には後一歩届かない。
胸の中に奇妙な感情が同居している。
彼に『殺させたくない』と。
綺麗過ぎる心を持った彼は、人を殺すことで深く傷付く気がして。
(『傷つけたくない』・・・?)
それは初めて知る感情。
いや、そもそも感情自体、持っていなかったはずなのに。
『好き』がどんな気持ちかなんて知らないけれど
自分の中で何かが変わっている。
気持ちが矛盾する。
彼を『好き』になってはいけない。
自分は『好き』になった者に殺されるから。
殺されるなら彼がいいのに。
考え込んでも仕方ないのだろう。
結局は『好き』がどんな気持ちかなんて知らないのだから。
最初から、成り立たない賭けだった。
それでも期限はやってくる。
さあ、どうしようか。
『傷つけたくない』は、『殺したくない』とは別物。
まだ『殺されたい』わけではないのだから。
殺してしまおうか。殺してしまえるうちに。
けれどもし、彼に憎まれることができれば。
殺してくれるだろうか。
あの綺麗な心を、穢すことができれば。
命懸けの賭けだった。
初めて自分のために嘘をついた。
「この賭けは僕の勝ちです。」
一年間、自分を嘘で固めてきたはずなのに、この嘘だけは、自信がなかった。
「貴方は僕が殺します。」
彼はただ泣いていた。
人を恨むことを知らない少年。
最初から彼の負けだった。
分かっていたはずなのに。
「さようなら。皇昴流君。」
彼に殺されるために。
彼を悲しませないために。
これは誰に優しい嘘?
自分は意外と自分勝手な人間だなと、後になってから気が付いた。
自分も彼も、まだ生きている。
邪魔が入ったのをいいことに、賭けの期限の延長。
今度は無期限に。
彼が憎しみを覚え、殺しに来てくれる日まで。
けれど最初から、彼の負けは決まっている。
自分が彼を殺せば彼の負けで
彼に殺されればこちらの勝ち
要するに、どちらに転んでも、勝つのはこっちなのだ。
最初から、成り立たない賭けだった。
それでも、『好き』がどんな気持ちかなんて分からないのだから
どうか最初で最期の優しい嘘に、彼が騙されてくれますよう。
貴方の負けですと叫びたい。
その気持ちを『好き』と言わずしてなんと言う!
鈍すぎだ、星史郎さん!!(愛ゆえです。)
CLAMPさんは悲恋カップルが多いですね・・・。
ラブラブべたべたハッピーエンドが書きたい・・・。
back