灯火





陽が暮れた。

星たちが存在を主張し始める中、窓から見下ろす街にも、1つ1つ灯りがともり始める。

綺麗だ、とは、思うけれど。




マッチの火をランプに移す。

部屋を照らし出すオレンジ色の光は、優しく暖かい気はするけれど。



「やっぱり、違うなあ・・・。」


灯した火を吹き消すと、再び暗闇が室内を満たした。

窓辺に腰掛けて、深く息を吸い込む。
いっそのことこのまま、吸い込んだ闇に同化してしまえたらいいのに。
そんなことを思いながら。


窓から見上げた空には、大きな月が浮かんでいた。


「銀月・・・。」


銀の月を包み込む藍色の闇。
あの闇になれれば、離れずにすむのだろうか。
あの愛しい銀の月と。





扉が開く音がした。

「お帰り。」

決して自分から『ただいま』とは言わない彼を、火を灯さないランプを手に出迎える。

「どうした、灯りもつけずに。」

いつもどおりの無表情で尋ねられて、そっとランプを差し出す。

「銀月につけて欲しくて。」


表情が変化したのかは分からないけれど、少しの間を挟んで、マッチの火が互いの顔を照らした。
火はランプに移され、光が部屋中に広がる。


「ありがとう。」


ランプの中で炎が揺れる。

綺麗だ、と思った。

外で灯っている、そんな灯りよりも、美しいと思った。


『灯りがないなら自分で灯せばいい。』

いつか言われた言葉。
それは確かに、そうなのだけれど。


ランプを窓辺に置く。灯された炎は、相変わらずオレンジ色に輝いている。


彼と過ごした日々の中で、知ったことがひとつ。


炎は、誰かのために灯されるから、美しく優しく輝くのだということ。

外で灯る炎より、自分で灯す炎より、彼が自分のために灯してくれる炎こそが、この世で一番美しいのだということ。






不意に灯りが消える。闇の中に、一筋の白煙を残して。

「藍・・・?」

「ごめん、消えちゃった。すぐつけるね。」


何事もなかったかのように、マッチ箱に手を伸ばす。
けれど、背後から伸びた腕が、その動作を妨げる。

「何を考えている?」

「・・・別に何も。ただ、炎が綺麗だなって・・・。」

抱きすくめられて身動きの取れないまま、けれどもそれが心地よくて。
マッチに伸ばした手を、彼の腕に添えた。




秘色の藍に抱かれて、銀の月が輝く。


炎は誰かにために灯されてこそ、美しく輝く。


限られた時間の中を生きるなら。

ただ愛しい人のために。



夜空の月を見上げながら、そんなことを思った。





         背景固定してるんですが、大丈夫でしょうか。
         右下のキャンドル、流れてってませんか?
         CLOVERで銀X藍です。以前にご要望がありまして。
         CLOVERってなんだよ、って方は本屋さんへどうぞ。
         買って損はないと(私は)思います。




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