貴方の跡が消えません―――
手首
『ファイッ・・・』
『おやすみなさい・・・』
杖の宝石が光る
周りが白く染まる
目の前の相手さえ霞むその光の中で
手首に強い力を感じた
『 !!』
走る痛みに気をとられて
最後の言葉を聞き逃す
今更止まるはずもない魔法の光は
無情にも王を眠りの底へ突き落として―――
「っ・・・!!」
思わず飛び起きた。
荒い呼吸を抑えながら、汗で湿ったシャツの胸元をつかむ。
「・・・・・・夢・・・・・・」
確認しても、手首に残る感触に背筋が震えた。
分かっていたはずだ。その夢が始まった瞬間から。
それでも、どうしても最後まで見たいと。
振り向きたくない過去に、どうしても知りたい言葉がある。
「あ・・れ・・・、もう朝なんだ・・・」
「やっと気づいたか。」
「あ、黒むー、おはよー。」
「早くねえよ。」
爽やかな朝には不釣合いな無愛想な顔は、不器用に心配を表に出している。
「ごめん、うなされてたー?」
「さあな。今、飯食って戻ってきたところだ。」
入ってきた気配を感じなかったから、本当に食事に行っていたとしても、黒鋼が戻ってきたのはファイが夢から覚める前だろう。
何も見なかったはずはないのに、知らないふりをしてくれる。
そんな情けはいらないのに。
「・・・黒むー、」
名を呼びながら腕を伸ばす。
要求は即座に叶えられて、伸ばした腕の間に逞しい体が滑り込む。
うなされていたと認めてくれれば、悪夢におびえた幼子のように彼に泣き付く事も出来ように、弱音を吐くことを許してくれないから、こうして求めることしか出来ない。
しかし何かを感じ取っているのか、いつもより強く抱きしめてくれる彼に、それでも手首に残る夢の中の感覚だけが自分のすべてだと言えば、どんな顔をされるのだろうか。
――アシュラ王・・・貴方の跡が消えません・・・
逃げてきたはず。出来れば二度と出逢うことのないようにと。
それなのにどうして自分は、あのシーンを繰り返す。
たったの一度も、彼の手を振り払えないままに。
まるでこの感触が消えることを怯えるかのように。
――オレは前を向けません・・・・・
たった一言、聞き取れなかった言葉を捜し求めるふりをして。
たとえその一言があったとしても、今の現実は変わるはずもないのに。
それでもどうしても、意識があの世界へ戻りたがる。
「黒りん・・・」
「おぃ」
体を離す代わりに触れる唇で、抱擁の先を求める。
開きかけていた黒鋼の唇はきっと、まだ朝だとか朝飯はとか、常識的な言葉を吐こうとしたのだろうが、もともと性に合っていない。
深く求めれば、必ず応えが返されることを、すでにファイは知っている。
「く、ろ・・・ん」
二度目は、黒鋼から重ねて、そのままベッドに倒れこんだ。
二人分の重みを受け止めてベッドが軋んだが、構わず3度目を求める。
ファイの腕を這い上がった黒鋼の手が、細い手首を縫いつけた。
それはまるで、彼の跡に重なるように。
「っ・・・!」
「な、何だ・・・?」
思わず体をこわばらせてしまったファイに驚く黒鋼に、ファイはそれ以上に驚いた瞳を向ける。
――そんな、わけ・・・・・・
「おい?」
「あ、ごめん・・・何でもない・・・・・・」
それでも明らかに様子がおかしい自分に戸惑う彼に、続けてくれと自ら腕を伸ばした。
再び手首を押さえる手を今度は静かに受け入れて、首筋を差し出すしぐさでその手を見つめる。
――これは・・・貴方の跡ですか・・・・・・?
手首の感触は消えないのではなく、新しく塗り替えられていたのだとしたら。
浮かんだ考えに受けたのは、衝撃ではなく鎖が外れるような解放感。
繋ぎとめられていたのは過去ではなく今この場所に。
過去など、振り向かなくてもいいように。
――オレは・・・・・・
前を向けないのは、手首に残る感触と、聞き逃したあの一言。
けれど、あの一言がなくても今が変わらないのなら、あの一言がないままに、前を向いてもいいのだろうか。
今前にいるのは、あの人ではないのに。
「おい。」
「え、何ー?」
「何じゃねえよ、何処見てやがる。」
「どこって・・?」
「お前から誘ったんだろうが。しっかりこっち見てろ。」
「・・・・・・・・・」
不思議だ。何も話していないのに、すべて分かっているかのような言葉をくれることがある。
けれど、今自分をここに繋ぎとめるのは彼の感触なのだから。
「黒みゅー・・・」
「何だ。」
「・・・・・ありがとう・・・」
「あ?」
突然礼を言われた黒鋼は、ワケが分からないという顔をして、それでも何か感じとったのか、少し照れたような仕草で頬をかいて。
戻ってきた手は、いつもより優しかった。
今夜はあの手を振り払える気がした。
黒たんって呼ぶときは『構って』って言う意味で
黒むーって呼ぶときは『抱きしめて』って言う意味で
黒りんって呼ぶときは『ちゅーして』っていう意味で
黒わんって呼ぶときは『盛って』って言う意味だって知ってましたか。
雪流さんは真剣にツバサ読み直しましたよ。大嘘じゃねえかよ!!(当たり前だ)
でもきっと何らかの法則があるぞ!!(どうでも良いから作品について語ってください雪流さん)
黒鋼は我慢の足りない子みたいになりましたね。(逝)
久しぶりに誘い受けなファイさん書いたがします。
うっかり微エロでごめんなさい。友人とエロ談議した直後に書いたらこうなりました。
頭の切り替えが下手なんだね!(違うと思う)
(アシュラ王が振られる設定じゃないと黒ファイが書けないのかも知れない・・・。)
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