サラサラサラ サラサラサラ
時が流れる音がする―――
砂時計
「何ですか、これ?」
王がファイにくれたのは、異国の使者からの献上品の中に入っていたもの。
真ん中がくびれたガラスの筒の中に、砂が入っている。
「異国の工芸品だ。砂時計というものらしい。こうして逆さにおくと、砂が落ちて時を刻む。」
王がそれを逆さに向けると、サラサラと重力に従って砂が落ちる。
「すべて落ちると一分だそうだ。」
「へえ・・・」
初めてみるそれにファイが目を輝かせたのは、物珍しさからだけではなく。
「じゃあ、途中で倒したら、時を止められるんですか?」
コトンとそれを横にすると砂の落下は止まったが、ファイの期待は叶えられない。
「魔法具ではないから、それは無理だな。」
苦笑して王は再びそれを立てた。
「しかし、お前ならいつか、自分の手で・・・」
期待の眼差しを向けられた魔術師は、その時はまだ幼くて。
本当にそんな力を手に入れたとして、何に使うかなど予想すらしなかった頃。
砂が落ちるように時は流れ、力をつけた魔術師は、王を封じて異世界へ旅立つ。
決意を胸に秘めたその日、ファイはもう一度、砂時計を逆さに置いた。
時が流れる音がする。
「逆さまにしたら、時間が巻き戻ればいいのにー。」
しかし砂はただ落ちるだけだ。これを王がくれたあの日に、ファイを運んではくれない。
「時間よとまれーなんて」
微かな願いと、過去の自分への嘲笑を込めて、ファイはそれを指で弾いた。
コトンと倒れた砂時計はコロコロと棚の上を転がって
「あ・・・」
伸ばした手をすり抜けて、床に当たってパリンと割れた。
もう時を刻むことすらできない砂が、ガラスと一緒に床に散らばる。
ファイが膝を突くとその僅かな風にさえ、小さな粒は流れてしまう。
サラサラサラ サラサラサラ
時が壊れる音がする
あの頃には戻れない。
もうここに居られない。
ファイの頬を伝った涙が一粒砂の上に落ちた。
濡れたその一点だけが流れるのをやめたのが、まるでその部分だけは時間が止まっているようで。
「行かなくちゃ・・・」
呟いてファイは立ち上がる。
あの頃には戻れない。
もうここに入られない。
王の時間を止めた後は、終わりに向かう時の旅へ―――
一番最後までどうしてくれようと悩んでいたお題ですが。
困ったときは助けて王様。
ファイさんの旅立ちのシーンは何度書いても飽きないね(少なくとも書いてる本人は)
砂時計って見たときからとりあえず割ろうとは決めてました。
初志貫徹。よし。(何・・)
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