褥
目が覚めた。
そこは暗い水底の、冷たく硬い氷の褥。
「ファイ・・・・・・」
あても無く手を伸ばす。側にあるべきぬくもりを失くしたことさえ気づかずに。
目に映るのは遥かな水面。
ここはどこだ。
手が触れた棺は、どこまでも冷たく、ただ熱を奪うことしか知らない。
熱を与えてくれるはずの彼は、なぜかここには居ない。
「ファイ・・・?」
何が起こった。
分からない。
けれど、ただなんとなく、残っている気がする彼のぬくもり。
棺は熱など与えないのに。
「そこに居たのか・・・?」
手を添えたそこに、確かな彼の残り香が。
ここに居た。
きっとここに手を当てて。
しばらくそうしていたに違いない。
「ファイ・・・」
王が目覚める。
冷たい褥に別れを告げて。
そしてそれが新たな幕開け。
始まるのは悲劇か喜劇か。
信じるべきは互いのぬくもり。
たとえ体がどこにあっても。
たとえ心がどこにあっても。
求めるべきは互いのぬくもり。
たとえどれほど遠くても。
たとえどれほど近くても。
決して離してはいけなかったはずなのに。
追い求めるは互いのぬくもり。
もう二度と離さぬために。
きっと彼も、今もまだ。
そして王は、旅に出る。
アシュラ王様、愛してます。(愛しすぎ。)
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