プルルル、プルルル・・・・
「はい、」
『あ、瀬川・・・?』
「司狼君?どうしたの?」
『あの・・・用はないけど・・・ちょっと声が聞きたくなって・・・』
「ふうん?あ、そういえば昨日さ、・・・」
背中
「司狼君、死ぬ瞬間に会いたい人っている?」
「死ぬ瞬間・・・?」
あれは、秋の土曜の昼下がり。
瀬川から始めた他愛ない話題。
「最近、地震が増えてきてるし、いつどこで死ぬかわからないから。」
「・・・そうだな。」
死ぬ瞬間に会いたい人。
考える振りはしてみても、きっと最期に会う人は決まっている。
望む望まないに関わらず。
「一番大切な人かな・・・」
「そう・・・」
「瀬川は?」
「俺は・・・大切な人には、みとって欲しくないかな。悲しむ顔を見ながら逝くのは嫌だから。」
「・・・・・・そうか・・・。」
けれどそれでは、あまりにも寂しい最期。
「でも、声が聞きたいな。電話でもいいから、今死ぬんだって事を隠して、何事もないように、何てことない会話をして・・・って、即死だったら叶わないけどね。」
最期に声を聞きたい人。
最期に会う人は、きっと決まっている。けれど。
「声を聞けるなら、瀬川がいいな。」
「・・・ありがとう。俺も司狼君がいいよ。」
それは、本当に他愛ない会話。
実際に、最期の時を想ったわけではないのだから。
「神威さーん!!」
不意に響いた明るい声。見ると、教室の入り口で、譲刃が神威を呼んでいた。
「あ、夕飯の買い物、一緒に行くんだった・・・。」
「じゃあ、また月曜日にね。」
「ああ、じゃあな。」
神威は、席を立って瀬川に背を向けた。その瞬間、
(・・・え・・・・・・)
その背が、遥か遠くに見えた気がしたのは、きっと昼下がりの白昼夢。
「バイバイ。」
声は、届いていたはずだ。
「あ、なんか俺ばっかり喋ってるね。」
『いいんだ、声が聞きたかっただけだから。』
今はもう、冬の初めの夕暮れ時。
『ありがとう、そろそろ切るな。』
「うん・・・・・・司狼君?」
『ん?』
「ホントに何もないの?」
『ああ。声が聞きたかったんだ。』
それは、神威からかかってきた意味のない電話。
他愛ない会話を交わすだけの、何の意味も持たない電話。
『じゃあな。』
「・・・うん、」
受話器を置く音が、静かに聞こえた。その瞬間、
(・・・え・・・・・・)
目に浮かんだのは、いつか感じた遠い背中。
このまま離れていってしまって、もう二度と、戻ってこないかのような。
(そんなわけない・・・)
そう自分に言い聞かせる。
これは、何の意味もない電話。
最期の瞬間を、思い浮かべてはいけない。
けれど、
「バイバイ・・・」
呟いた別れに応えるのは、規則的な、電話の機会音だけで。
声は彼には届かなかった。
決戦の日の前日、皆は何をするだろうと思いまして、
とりあえず神威ちゃんは瀬川君に電話で。
普段神威ちゃんが電話かけることなんてないでしょうから、
きっとこれが最初で最後の電話なんですが。
何も知らずに浮かれて喋り捲ってる瀬川君を思うと、
愛しくて仕方がありません・・・vv(愛です。)
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