両の翼を失った、僕達はもう飛べない。
傷跡
いつの間にか、雨が降り出していた。随分激しく降っているらしく、閉め切った部屋の中にまで音が聞こえてくる。その音が、逆に室内の静寂を引き立てていた。
ギシ・・・
ベッドに腰掛けた瞬間、響いた音が意外に大きく、昴流は後ろに視線を向けた。そこで眠る少年を、起こしてしまったのではないかと。
けれど心配は杞憂に終わり、ベッドの上の少年は、相変わらず、安らかな寝息を立てている。
「神威・・・・・・」
そっと名を呼んで、柔らかい髪に触れてみても、その寝息が乱れることはない。
この様子では、しばらく起きることはないだろう。後で空汰達に連絡しておこうか、などと考えながら、昴流は一人分だけ淹れてきたコーヒーを口にした。
神威は自分に似ていると思う。天の龍の一人にもそう言われた。境遇が似ているからだろうか。同じ傷を、持つ者同士だからだろうか。なんとなく気が合い、ともに過ごす時間が多くなり、まるで傷を癒しあうように、肌を求めたのはついこの間。そこに想いがあるのかなど判らないまま、何かを埋めるように、もう何度も、この行為を繰り返している。
傷口が塞がることはないことなど、よく解っているのに。
ギッ・・・
再びきしんだベッドは、今度は昴流のせいではなく、神威が寝返りを打ったため。
寒いのだろうか。そういえば、雨のせいで少し室温が下がっている気がする。
寝返ったせいで出てしまった肩に布団を掛けてやろうとして、ふと視線が一点で止まる。
こちらに向けられた背中に、浮かび上がる骨のライン。
まるで、もがれた翼の跡だと思った。
小鳥という名の少女と、封真という名の青年。
その二人が、神威が失くした翼。
自分にとって、北都と星史郎がそうだったように。
両の翼を失えば、もう飛ぶことはできない。
虚しい行為を繰り返しても、互いが翼の代わりになることなどできず、ただ塞がらない傷口を舐めあうだけ。
けれど、傷口から流れ出る血のぬくもりは、地の冷たさを忘れるには丁度いい。
ふとよぎったそんな考えを、軽く頭を振って振り払う。布団を掛けなおしてやってから、一気に飲み干したコーヒーは、さっきより苦い気がした。
雨の音が強くなった気がして目を開けた。濡れた頬に貼り付いた髪を掻揚げもせず、昴流は雨に沈む東京を見つめる。
癖のようにポケットに手を伸ばしてから、随分前に、煙草を切らしていたことを思い出した。けれど、買ってまで吸う気にはならなかった。
神威の側を離れて1ヶ月になる。彼の傷口は、まだ血を流し続けているのだろうか。気にはなっても、帰ろうとは思わない。もう、自分の傷口は塞がった。
何故似ていると思ったのだろうか。今思えば、自分と神威はこんなにも違う。同じ傷を持ってはいても、昴流はその傷を塞ぎたいとは思わなかった。翼を取り戻せば、得るのはきっと、再び堕ちることへの恐怖。それならばいっそ・・・・・・そう願った昴流は、翼を取り戻そうと、必死でもがく神威とは正反対。けれど皮肉にも、翼を取り戻したのは、昴流の方だった。
「星史郎さん・・・」
右目に触れて呟いたのは、自分から翼を奪った彼の名。
そして、傷口を塞ぎ、翼を与えてくれた彼の名。
しかし、傷跡から生やした翼は、空を飛ぶには重すぎた。
それなのに、遺した目を足枷に、彼は昴流を生に繋ぐのだ。這いつくばった地の冷たさを忘れさせるぬくもりは、もうどこにもないというのに。
「何を考えている?」
「・・・別に・・・何も。」
雨音に混ざり、背後から聞こえた声は、振り向かずとも、地の龍の神威のものだと解る。
神威がなくした翼。そして、たった一人、神威の傷を塞げる者。
「また、どこかを壊しに行くんだね。」
「一緒に来るか?」
問いかけは、誘いではない。彼は、地に堕ちた昴流に、破壊を強制することはない。
首を横に振ると、前髪から水滴が落ちた。それが地に付く前に、隣を風が通り過ぎる。顔を上げると、雨の街に消えていく背中が見えた。
「神威・・・」
今になって思う。自分と神威は全く似ていなかったのだと。神威に地面は似合わない。
だから願う。
彼が神威に翼を返した時、その翼の重みが、神威を地に縛り付けることがないようにと。
血を流すことをやめた傷跡からは、もうぬくもりは得られない。地に這いつくばって冷え切った体では、もう誰も暖めることはできない。
そして地に堕ちた自分では、もう神威に触れられない。
雨がまた強くなった。
塞がったはずの傷跡が、僅かに疼いた気がした。
昴流X神威でエロなり損ね小説・・・。
なんて内容のない・・・。昴流君が暗い・・・。
一応主張しておきますが、雪流さんの主食は、封X神
と星X昴です。書けないだけで。・・・・・・いや、書かない
だけで(見栄)
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