俺は何も知らない。
君の事を何も知らない。
だから、大丈夫だよ。
偽りの無知
「正義の味方っていると思う?」
何とはなしにそう訊いて見ると、しばらくの沈黙の後、物凄くもっともな答えが返って来た。
「・・・そろそろ現実見つめようぜ?」
確かに、ね。
「あ、司狼だ」
俺と話しながら、窓の外を眺めていた友達の言葉に、俺の視線も窓の外に向かう。まだ始業には余裕のある、平和な朝の登校風景。その中で、司狼君の姿は、すぐに目に付いた。
今回は何日ぶりだったっけ。2週間くらい会ってなかったかな。
「2週間前は新宿だったっけ。」
「あ?何の話だ?」
「なんでもない。」
笑顔でかわして席を立つ。そろそろ教室に着くころだ。
「お前ってホント・・・」
「ん?」
「・・・いや、いい。行けよ、お出迎えだろ?」
諦めた顔に見送られて、俺は教室のドアに向かった。丁度良いタイミングで、小柄な体がドアの向こうに現れる。
「おはよう、司狼君!!」
「お・・・おはよう・・・・・・」
こっちから声をかけると、待っているとは思わなかったのか、少し驚いた声で挨拶が返ってきた。少し痩せたかな。腕にはやっぱり白い包帯。
「また怪我したの!?」
「あ、ああ。でももう大丈夫だから。」
「ホントに!?」
「ああ。」
こんなやり取りも、もう何度目になるだろう。帰ってくるのは絶対に、もう大丈夫の一言。
優しいんだね。人に心配かけるのは嫌なんだ。
人の心配はするくせにね。
「司狼君は、今日も弁当?」
「ああ。」
「じゃあ一緒に食べよう!俺パン買ってくるから!」
「・・・・・・ああ。」
一瞬送れた返事。ああ、しまった。弁当ネタはまずかったかな。俺にはもう、弁当作ってくれる人がいないから。
「・・・もう大丈夫だよ。寮生活にも慣れたし。心配しないで。」
「・・・・・・うん。」
司狼君が気にすることじゃないのに。
それでも、責任感じてるのかな。
池袋の地震を、止められなかったこと。
「ねえ、司狼君は、正義の味方っていると思う?」
「正義の味方・・・?」
「そう、地球を悪者から守る、正義の味方。」
「・・・・・・・・・。」
沈黙。何を考えてるのかな。子供っぽいって思ってる?それとも、自分のことを考えてる?
現実見つめろって言われたけど、俺が見た現実はこれなんだよ。サンシャインビルに外側から登れる高校生が、実際に、今、目の前にいるんだ。
ただ、アニメの中の正義の味方とは違って、怪我したら学校休むし、次の週には完全復活とはいかないみたいだけどね。
さあ、なんて答えるのかな。アニメなら、正体はばらさずに、存在だけ肯定するところだと思うけど。
「・・・・・・・・・いない・・・と思う。」
「・・・・・・やっぱりいないかあ。」
やっと返ってきた返事は、なんだか少し拍子抜けで、でも凄く司狼君らしかった。
「じゃあ、正義の味方になれたら、何をしたい?」
「なれたら・・・?」
本当はもっとはっきり訊きたいんだけどね。
君は何の為に戦ってるの?
「俺は・・・大切なものを、守りたい・・・。」
「・・・・・・地球とかじゃなくて?」
「地球なんかじゃなくて・・・手の届く範囲だけでいいから。大切なものを守りたい。・・・自分勝手かもしれないけど・・・。」
へえ、アニメの中の正義の味方とは、本当に随分違うんだね。地球の為とか、人類のためとか、そんなのじゃないんだ。
「だけど・・・うん、そうだね。」
そんなものかもしれない。地球なんて大きすぎて、守る実感なんて湧かないよね。自分の手が届く範囲だけ、大切なものだけ。
俺にも司狼君みたいな力があったら、きっと・・・。
ああそうか。だから、正義の味方なんていないんだ。
「どうして今日はそんなこと訊くんだ?」
「ん?何でもないよ。久しぶりに、テレビで戦隊モノ見たから。」
大丈夫だよ。心配しないで。
俺は何にも知らない。君の事なんて何にも知らない。
そういうことにしておくから。
だから何も気にしなくていいよ。
母さんの事も、地震の事も、司狼君の責任じゃない。
誰も君を責めたりしないから。
君は君が守りたいものの為に。
何も知らないから何もいえないけど。
そっと応援してるから。
ああああああ、世にも珍しい(そうか?)瀬川君一人語り。
好きなんですよこの子。下手したら封ニイと張り合うくらい。
実は池袋のあの時、神威ちゃんの後追っかけてって、サンシャインに
上ってるところを見てしまったのです、という設定の下で書いております。
ドリイム。
最後、中途半端な感じがしますが、ほっといてやってください。管理人の限界です・・・。
back