時鼓へ
元気にしていますか。私達が沖縄に来てもう3年になります。
神威も中学生になりました。学校には、あまり行っていないけど。
この前、身体測定があったらしいです。随分身長が伸びたはずなのに、あまり喜ぶ様子はなかったのは、同年代の子の中では、やっぱり小さい方なのかしら。
神威は、今日も海を見ています。
あの日の憧憬
「ん・・・・・・。」
心地よい揺れに、神威は目を覚ました。正面に沈む夕日の、赤い光がまぶしい。
「起きたのか?」
声をかけられて、やっと自分が封真に背負われていることに気付く。
「もう寒いのに、あんなところで寝て、俺が見つけなかったら凍死してるぞ?」
そういえば、三人でかくれんぼをしていた。
「小鳥ちゃんは・・・?」
「うちに帰った。お前は今から俺に送られて帰るところ。」
封真の足元で、茶色い子犬が尻尾を振っている。どうやら彼も一緒に送ってくれるらしい。
封真が降りろと言わないので、神威は封真に負ぶわれたまま、夕日のまぶしさに再び目を閉じる。
そうして揺られていると、また眠ってしまいそうだ。
「おい、寝るなよ。寝たら重くなる。」
「ん・・・そうなの・・・・・・?」
「ああ。落すぞ。」
そんなことを言っても、きっと最後まで背負って行ってくれるんだろうなと思いながら、それでも少しでも封真が楽なようにと、肩に回した手に力を込める。
それなら降りればいいのだが、この背中の感触は、離れてしまうには惜しい気がした。
広くて、力強くて、自分と一つ違いとは思えない。
「封真、身長何センチ?」
「ん?145センチくらいだったと思うぞ?」
「・・・・・・ふーん・・・・・・」
並ぶには、10センチ以上足りない。
「いつか、封真みたいになりたいな。」
大きくて、強くて、温かくて、優しくて。
「なんだ、俺を追い越すつもりか?」
「いつかは追い越すよ。」
「どうだろうなあ。」
「追い越すもん!」
そうだ、と言うように、足元の子犬が「わん」と鳴いた。
「ほら、こいつだって!」
「あはは、じゃあ、神威が俺を抜かしたら、何か一つ言う事を聞いてやる。」
「また馬鹿にしてっ。絶対封真より大きくなるよ!お母さんだって、封真より大きいもん!!」
「まあ、そりゃあな。」
「絶対抜かすからっ!覚悟しててよっ!!」
「分かったよ。」
そのときはまだ、何を頼むかなんて決めていなくて、ただ、封真みたいになりたいと。
けれど、夕焼けの中、憧れた背中は、今は遠く離れた場所にある。
『151センチ』
一年で7センチは驚異的な伸びだと思う。成長期の力は素晴らしい。145センチを、一年ではるかに追い越した。今はもう、あのときの封真より背が高い。
「言う事一つ、聞くって言ったよな・・・・・・。」
海を見つめながら、遠い海の向こうに向かって、神威は願いを口にする。
「・・・会いたい・・・・・・」
何度、そう呟いたか分からない。
それでも彼は、会いに来てはくれない。
きっと、今の封真はもっと背が伸びているのだろう。
遠い日の憧れを神威が追い越してしまったように、きっと彼も変わっている。
それでもきっと相変わらず、大きくて強くて温かくて優しくて。
いつか憧れたそのままの全てで。
「会いたい・・・封真・・・・・・」
この声の届かない場所で、せめて彼もそう祈っていればいいと。
私は、残酷なことをしたのかもしれない。
それでも、こうしなければ・・・。
いえ、こんなことをしても、結局は無駄なのかもしれないけれど・・・。
こんな手紙で弱音を吐き出してでも、神威の前では強い母親でありたい。
せめて最期の瞬間まで、あの子を支えてやれるように。
時鼓、私はもうすぐ死ぬと思います。地球の厄災は、私一人ではとても受けきれない。
そのときが来たら、神威を頼みます。私は何も伝えられずに、逝くことになるから。
出すつもりの無い手紙に、こんなことを書くのはおかしいかもしれないけれど。
じゃあ、また。
斗織
斗織さんから時鼓さんへの手紙を・・・。
結局出さないと思うんですがね。
何通も溜まった出さない手紙は、斗織さんと一緒に
燃えたんだというMY設定。
中学一年151cmは、某庭球王子様を基準に。
多分この時で封真は170はあったと思いますよ。
今は183だと踏んでいるんですが。
神威ちゃんは162センチ。私より3センチ上。(ちっちゃ。)
そんな彼が大好きです・・・。
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