■アマノ様から頂きましたv■
こわいゆめをみた ファイがひとりで、知らない場所にいるんだ たったひとりで ************************************** 闇をゆらすかすかな気配が 古い魔法の文字のなかに沈んでいたファイの意識を引き戻した 声の主は、ただ一人 まだおさない、ファイのあるじ 「ファイ・・・。」 「一緒に寝てもいいか?」 「殿下?」 気丈なあるじにしては珍しい 「怖い、夢を見た。」 いつもは強い光をたたえた大きな瞳が こころなしかうるんでいる 月のない夜のひとみ 「ひとりで」 「いたくない」 ―――いさせたくない。 そうは、言えなかった。仕方無いが、こう言う。 「―――私が大きくなったら、今度はファイの番だからな。 遠慮せずにいつでもこい。」 「・・・(うーん、かわいいな―――と)」 「おかしいか・・・?」 「いいえー。頼りにしていただけたみたいで、うれしいんですよ―――」 「みたいとはなんだ、頼りにしている」 ―――あーそうでしたー、と軽くながしながら 魔術師の瞳に真面目な光がさす 「殿下」 「殿下は強い王になられます。」 「その時、もうオレはあなたの魔術師なんですから」 「何も、おそれる必要なんてないんですよ」 「今も。これからも」 ―――なにも おそれる必要はない おさない王子は 瞳を閉じて、その言葉を聞いていた 「・・・わかっている」 だが自分は、今日も大事なことを言わなければ。 何度でも繰り返す 「ファイ・・・好きだよ。大好きだ」 「今も。これからも」 *************************************** (好きだよ) (ほかの、だれよりも) (ほかの、なによりも) ―――オレも大好きですよー と、ほほえんでいる魔術師はしらないのだ (この想いの、おもさを) いつまでも同じところを巡っているやりとり だけどほかに なんていえばいいんだろう? ゆめのなかで思ったんだ
ファイが ほかのだれかの、ものになるのがいやだ こわいのだ この―――うつくしい魔術師をうしなうことが 彼を置いていくのは自分のはずなのに ファイがひとりでたたずんでいる世界 そしてそこに自分はいない そんな世界があることがおそろしかった だが、魔術師は こどもらしい『こわいゆめ』をみたと受け取ったようだ よしよし、と あやしてくれる腕はおもいのほかあたたかかった あるいは そういう魔法、なのかもしれない それはそれでここちよかった たとえ自分が本当に望んでいるものとは違うかたちでも *************************************** ―――月がわずかに位置を変えるいっとき 王子は安心したのか、もう眠り込んでしまいそうだ 抱き上げて寝台に連れていくと掴んだ手を離さないので 仕方なく、ファイもローブのままで横たわる。 「ファイ」 「ファイは美しいな。今夜の月光に、よくにている」 「・・・(あ―――もう、なんか先おそろしいような気がするな――)」 「さあ。ちゃんとおやすみ下さい―――。」 耳元で囁くと、くすぐったそうに首をすくめる じきに、規則正しい寝息がファイの耳にきこえてきた 自分の腕に、頭をあずけている未来の王 この子が自分の腕に抱かれて眠るのも今のうちだけだ いずれは、この国のすべてを背負う子 ―――この子は、強い王になる かつて仕えた王のなかでも 本当に、自分の背を追いこすのも、そう遠いことではないのかもしれない そして、来るべき日も・・・ ―ファイにとって、最大のうれしさと最大のさびしさが同時に訪れる戴冠の日 だが今は、ちいさな温もりがファイを安心させてくれる 「アシュラ王」 「―――わが君」 そっと呼んでみるが 幼子はもうすっかり眠り込んでしまったようだ 腕の中に自分のものではない体温を感じながら ファイもまた、穏やかな眠りの底に落ちていった ―――珍しく雪のやんでいた透明な夜 この時はまだ、遠くない未来に自分が抱かれて眠る側になろうとは ファイ自身、まるで知るよしもなかったのだが。。。 |