■文月様から頂きました♪■ 金の髪がゆれる。 いつもそれに触れたかった。 いつも彼に触れたかった。 早く、はやく大きくなりたい。 彼を守れるように、 彼に頼られるように。 廊下の空気は冷たく鋭い。王子は、頬を赤く染めながら長い廊下を走る。 この廊下を抜けた先にある部屋が、王子の教育係りである魔術師の部屋。 長い廊下が、いつもより長く感じられる。 はやく、早く、速く。 魔術師に早く逢いたい。 逢って伝えたいことがある。 長い廊下を抜け、王子は肩で息をしながら、魔術師の部屋の前で立ち止まる。そして深呼吸をひとつ。 いつだって綺麗な魔術師に釣り合いたくて。 王子は息を整え、手櫛で髪をすく。 この髪を、魔術師は気に入っている。 綺麗な黒髪ですね、と撫でられるのがくすぐったくて好きだ。 魔術師の方が、自分の何倍も綺麗だと思うが、気恥ずかしくて、まだ言えずにいる。 いつか、いつか。 魔術師よりも背が高くなったら。 この気持ちと共に、伝えたい。 魔術師は、話すとき自分の目線までしゃがんでくれる。でも、それでは嫌だ。 魔術師は、よく抱き締めてくれる。でも、それでは嫌だ。 自分を見上げる魔術師が見たい。 魔術師を包み込むように抱き締めたい。 だから………。 王子は扉をたたく。中から、どうぞという声がする。そう、大好きな声だ。 「入るぞ、ファイ」 「あれー、王子?お茶の時間にはまだ早いですよ?」 そう言って、魔術師は微笑む。 座っている椅子から立ち上がろうとした魔術師を止めて、王子は彼のそばに寄った。 「さっき、宮女に言われたことで、ファイに知らせたいことができた」 王子は魔術師の前に立つ。そしてにっこりと笑った。 「何か気付かないか?」 「えー…………あれ?王子、背伸びました?」 出会った頃はこのくらいでー、今気付きましたけど、けっこう伸びてましたね。そう言って笑う。 魔術師は、いつも気付いてほしいことに気付いてくれる。 王子はにっこり笑って、魔術師に抱きついた。 「すぐに、お前より大きくなるぞ!……そして、」 お前にこの気持ちを、伝えるんだ。 言葉の後半は、まだ心に秘めたまま。 抱きついた王子に、魔術師の表情は、見えない。 魔術師は、悲しそうな、寂しそうな笑顔。 そしてぽつりと、王子にも聞こえないほど小さな声で、呟く。 「……………貴方も、オレを置いて逝くんですよね………」 王子が顔を上げた。 「何か言ったか?」 「いえー、何も」 魔術師は、やはりにっこり笑う。 王子は知っている。その笑顔が、魔術師の本当の表情でないことを。今のように、違和感のある笑顔の ときはなおさら。 「……ファイ」 「なんですー?あ、少し早いですけど、お茶にしますー?」 「………無理して笑ってないか?」 抱きついている魔術師の体が、びくっと跳ねた気がした。 「……………」 「……………」 「……………ばれましたか」 多少、言葉のトーンを落として、魔術師が言う。 「そう、なんです。実は……悲しくってー……」 「何がだ?」 魔術師が悲しんでいることが辛くて、王子は真剣に尋ねる。 「ええ。王子がオレよりおっきくなっちゃうとー、頭なでなでも、だっこして空中浮遊も、膝に乗せて 本を読んであげることも出来なくなっちゃうのが、悲しいんですー」 「……いや、私が言いたいのはそういう悲しいじゃなくて」 「あ、王子のつむじも見れなくなるしー、見上げてくるしぐさが可愛かったのにー…ちょうど良い位置 に頭があったのになぁー…」 「そうではないっ!!」 王子はむうっと頬を膨らまし、魔術師をにらむ。 「決めたぞ!絶対にお前より大きくなってみせる!絶対だ!!」 「えー」 魔術師の残念そうな声に、王子の頬は赤くなる。 「今から、今から背を伸ばす方法の載っている本を探して、一日でも早く大きくなるぞ!!」 王子は言うや否や、書庫に向かって走って行った。 部屋には、残された魔術師だけ。 「……………まいったなぁー…」 一瞬、笑顔が作れなかった。 一瞬、成長が許されている王子が羨ましく、妬ましくなった。 なんて、なんて生命力に溢れているんだろう。 短い生の内に光輝く彼等は、成長の停まった魔術師にとって、眩しいくらいに力強い。 その力強さに自分は引かれていく。 そして、彼等の生が終ったとき、我に返るのだ。 己と彼等は違うのだ、と。 「…今の王も、今の王子も、またオレを置いて逝くんだ……」 親しくして、後で辛いのは自分。 だから………。 だから………。 「愛なんて、いらないんだ……」 魔術師は、泣きそうな笑顔で、呟いた。 文月様から頂きましたv 抱っこして空中浮遊とか羨まs・・・ 心のうちを明かしてもらえなくてむきになる王子可愛いです・・・!! しかし察しのよさにいい男の片鱗が垣間見えます、将来が楽しみです・・・v 早く大きくなって魔術師の硬く閉ざされた心に押し入ってやってください! 文月様、ありがとうございました! BACK |