碧流様から頂きました♪■






    『風花』


万年雪に閉ざされた空中都市、セレス国。

その寒さは予想を越える程厳しく、独りで生きていくのはとても困難だと思われるセレス国だが、稀に太陽の光が顔を覗かせることもある。

そして、今日がそんな日だ。

魔術師ファイは、回廊から城内で最も大きいとされる中庭を眺めていた。
城の最奥に位置するこの場所まで彼が歩を進められるのは、彼に王子の教育係りという高貴な役職が与えられているからだ。

降り注ぐ朝日と、雪解け水に反射した光の照り返しにファイは目を細めた。

この美しい景色を、自分はあと何十回見ることになるだろうか。数々の賢君を世に送り出してきたファイにとって、一年に何度見られるかも分からないこの景色も、通り過ぎていく只の日常の一部に過ぎなかった。

「――――ファイ!!」

飛び切り元気な声がして、且つその声が呼んだのは自分の名だと知りファイは振り向いた。

駈けてくる子供。肩に届くか届かないかの黒髪と、輝く金の瞳をした少年。

この少年こそ、現在ファイが教育を施している次代の王――――アシュラ王子だった。

「お早よう御座います王子。よくお眠りになられましたかー?」
「ああ。でも、こんな良い天気久しぶりだから嬉しくて目が覚めてしまった」
「それは良う御座いましたー」

王子は、少年特有の少し高い声でへへっと笑った。
口に出して言ったことはなかったが、この屈託のない笑みにファイは何度も救われた。

人の数倍の生を生きるファイは、人の数倍孤独を感じることが多かったからだ。

「それで、王子は朝日を見るためにこちらまで降りてらしたんですかー?」

ファイがゆっくりしたトーンで問い掛けると、思いの他王子は頬を赤らめた。

「い、いや・・・・それもあったけど・・・・。ここに・・・・ファイが居た、から・・・」
「え?」

最後の方は囁くようであったが、魔術師のファイにはしっかり聞き取れた。自分で言って恥ずかしくなったのか、王子は勢いよく首を振る。

「なっ何でもない!!今の忘れて・・・・!」
「王子」
「えっ!?」

ファイは王子の前にしゃがみ、目線の高さを同じにした。聖母のような笑みが王子に向けられる。

「ありがとう」

「―――――っ!!」

王子の顔が見る見る内に紅に染まっていった。咄嗟のことに思わず面を伏せてしまう。

口に出して言ったことはなかったが、慈愛に満ちた母のように温かなこの笑顔に、王子は何度も救われた。

王位継承者と持ち上げられている王子にとって、日常は辛い日々が多かったからだ。


ファイは王子の頭をぽんと優しく触り、しゃがんでいた腰を上げさっと立ち上がった。

「・・・・・また少し冷えてきましたね。お風邪を召されますから、王子。中へ戻りましょう」

ファイは王子に背を向けた。だが歩き出して数歩と経たない内に、言葉という魔法でその場に繋ぎ止められる。

「・・・・・・好きだ」

王子の押し殺した、でもはっきりした声を聞き、そしてその内容にファイは驚き目を見開いた。半分ほど王子を振り向き、困ったように笑う。

「王子、私は・・・・」
「・・・・ファイが好きだ!!今初めて思ったんじゃない!!初めて会って笑ってくれた時から、本当はずっとずっと好きだった!!」

有らん限りの声を張り上げ、己の想いの丈を全部ぶつけて。王子は叫ぶ。「お前が好きだ」と。

いよいよ困り果てたファイは王子の前に再び腰を折ると、王子の瞳に滲んだ涙を指で拭い、諭すように言った。

「前にも言ったでしょう?私は王子たちと同じ時を刻むことができないのです。例え恋仲になったとしても、辛い思いをすることになるでしょう」

だから、自分のことは諦めてくれと諭すのか。

そんなの・・・・・絶対嫌だ。

王子は拳を握り締め、面を上げてファイの眼を真っ向から見た。

「だったら!私が必ずファイを救ってやる!ファイが皆と同じ時を刻める方法を見つけるから!!だからっ・・私が王位を継ぐまで・・・待ってくれ・・・!!」

それまでは陰から支え続けるから。

辛い時はずっと傍に居るから。

だから、自分がお前に相応しい位につけるまで。

ファイを守れるくらい、強くなるまで待ってくれ――――――。


王子の震える拳。紅に染まった端正な顔。それらの全てが物語るのは、王子の気持ちが本物だということ。

ファイの顔から、困惑の表情が消えた。代わりに、いつもの明るい笑顔が顔を出す。

ファイは、王子の足元に頭を垂れた。







「―――――御意」








それが貴方の御心であるのなら、私はそれを受け入れましょう。
その結果どれだけ辛い目を見ようとも、共に生きる時間が大切だと思えたら・・・・・・それほど幸せなことは、きっとない。









「未来が約束されてる幸せなんて楽しくないかもしれませんものねー」

宮殿へ戻る途中、ファイがぽつりと呟いた一言に王子は首を傾ける。

「何だ?」
「いえ、何でもありません。それより王子ー」
「ん?」
「王子の告白はこれで13回目ですねー」
「・・・・・・・。」

ファイは、反論するにできず沈黙してしまった王子の頭を撫で、頬を染めてあははと笑った。
王子は照れ顔に悔しさを交えたような表情で、撫でられた頭を触った。


屈託のない王子の笑みにファイは何度も救われた。

人の数倍の生を生きるファイは、人の数倍孤独を感じることが多いから。




慈愛に満ちた母のように温かなファイの笑顔に、王子は何度も救われた。

王位継承者と持ち上げられている王子にとって、日常は辛い日々が多いから。






二人にとって、お互いはなくてはならない存在になりつつあった。



END.




王子部屋初の頂き物です、碧流様から頂きましたv
ファイさんが王子の足元に頭を垂れる図、ストライクです・・!素敵!
王子は13回も告白してるんですか、か、かわいっ・・・!
幼いながらも一途で男前で惚れ惚れしますv
今はまだファイさんに転がされてる感もありますが、いつか転がしてやってくれ・・・!!
碧流様、ありがとうございました!!


BACK