雪が、こんなに冷たいものだとは思わなかった。
やめようか。そんな考えが頭をよぎる。
けれどせっかくここまで作ったのに。
思い直してまた触れる。
手袋は水を含み、随分前にはずしてしまった。
凍えた右手を左手で包んでみるが、左手も凍えているので効果がない。
赤くなった指先に、息を吹きかけてみる。
その息まで震えていて、思わず笑ってしまった。
雪に、こんなに長く触れるのは初めてだ。
この国にはそれは当たり前にありすぎて。
下々の子供たちがそれで遊ぶことは聞いていたけれど。
恵まれた環境で育った自分には、室内に遊び道具があふれていたから。
わざわざ外に出て触ってみたいと思ったことは一度もなくて。
でも、雪で作った人形が、幸せを運んでくると。
そんな民間の伝承を、彼なら信じていそうな気がして。
『はじめまして、王子様ー。ファイ・D・フローライトです。』
教育係だと紹介された魔術師は。
すらりとした体躯に透き通るような白い肌。
眩いばかりの金の髪。
そして、サファイアでもはめ込んだかのような蒼い瞳。
お伽噺の姫君でもきっとこんなに美しい姿はしていないだろうという程の姿で。
どこか――寂しそうに微笑んだ。
「何やってるんですかー?」
「あ・・・」
降って来た声に顔を上げると、珍しく晴れた空の下、金の髪が輝いて。
「ファイ・・・」
その名を呟くと、応えるように魔術師は自分の前にしゃがみこんで。
そっと凍えた両手を取った。
「侍女さんたちが困ってますよー。お風邪を召されたらどうしようって。」
「このくらいで・・・風邪なんか。」
「でもこんなに凍えられて。寒いでしょうー?」
そして包み込んだ両手に、やさしく息を吹きかけた。
白く曇った吐息から、指先にじわりとぬくもりが伝わる。
(あれ・・・)
「殿下?どうかなさいました?」
首をかしげる動作にあわせて金の髪が揺れる。
自分はそんなに呆けた顔をしていただろうか。
「・・・魔術師の息は、氷のように冷たいんだと思っていた。」
「そんなまさかー。魔法を使えばそういう事も出来ますけどー。」
「じゃあ・・・温かかったのは・・・?」
「それは魔法じゃありません。魔術師なんて言ったって、殿下とそう変わりませんよー。」
そう言って彼はくすくすとおかしそうに笑った。
そして少し不細工な、雪の人形に視線を落とす。
「お上手ですねー。雪遊びがお好きなんですか?」
「いや・・・・ただ・・・・・・」
雪で作った人形は、幸せを運んでくる。
民が信じるからには、それなりの結果が出ているのだろう。
「・・・お前に・・・・・・」
「・・・頂けるんですか?」
「・・・・・・」
答えるのがなんだか照れくさくて、ただ小さく頷いた。
「ありがとうございます。溶けない様に魔法をかけて、部屋に飾っておきますね。」
その言葉を彼は、花がほころぶような笑顔で。
「・・・・・・」
「さあ、殿下はお部屋に戻りましょう?ココアでも飲んで、温まらないとー。」
「あ・・・ああ・・・。」
促されて立ち上がる。
手を引かれて歩き出す。
雪で作った人形は、本当に幸せを運んでくるらしい。
彼の吐息が温かい事を知ったから。
なんだか胸まで温かい。
王子部屋TOPの背景画像にssなどつけてみました。
まだ純情なアシュラ王子、恋に堕ちる編。
人形って言うか雪だるまなんですけど、だるまって言う言葉はセレス国にはなさそうだと思い。
このイラスト書いた後に、せっかくの過去編なんだからファイさんの髪を伸ばせばよかったと気づいた私は髪フェチとして失格です・・・。
次から伸びます(えー)
ファイさんはまだ自分が長生きなのは話してないと思う。
ちなみにこんなほのぼのむずむずな話で通すつもりはまったくないので(むしろ裏物はどこに収納しようかと悩んでるくらいで)ご安心を!(え)
続くのかどうかは心配です。
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