ねえ、そこにいますか? 喪神舞 ここは南の小さな島。 あるものといえば、海と砂浜と林と、宮殿と神殿と遺跡と、いくつかの集落と唯一のホテルと大衆食堂。 住んでいるのは人間と動物と、そして神。 神に名は無く、ただ神という称号だけが贈られた。 動物は、小さな島ながら様々な種類が生息しているが、島民にとっては可食・不可食の区別だけで事足りる。 人は、3種類に分類される。 王族・この島を治めるもの。 平民・この島に住み、治められる立場にあるもの。 神子・神に愛され、神の為に祈りを捧げるもの。 今日も、神殿では神子の舞が行われ、昼間は仕事のない民達が、その舞を見ようと神殿に訪れる。 大衆食堂で働く黒鋼も、昼休みを利用して、ぶらりとそこを訪れた。 少し遠い舞台の上では、金の髪の踊り子が、薄布を翻して舞っている。 その美しさには、きっと神も見とれているに違いない。 少し前までは神子は神聖なものとして、王族以外の目に触れることはなかったのだが、今ではこの舞もほとんど芸能と化してしまっている。そして神子制度自体も、今舞台上にいる彼を最後に廃止にされるらしい。 本当はすぐにでも廃止されるはずだったのだが、それを拒んだのは神子自身。 『あの人が神になるなら、オレは舞い続けられる限り神子でありたい。』 そんな事情も、神と神子の間に何があったかも、知るのはごく一部だけだ。 などということを考えていたら、舞台の方で拍手が起こった。今日の舞は終わりらしい。 (しまった、ほとんど見てねえ。) わざわざここまで出向いたのに。 ざわざわと観衆が引いていく中、黒鋼もしかたなく歩き出す。 しかし、人の流れとは逆の方に。 「おい。」 関係者以外立ち入り禁止の看板をあっさり無視して、神殿の奥まで入っていくと、舞を終えた神子が腕から装飾をはずしていた。声をかけられて振り向いた彼の顔がパッと輝く。 「黒むー、久しぶりー♪」 始めて出逢った頃から考えると随分明るい笑顔で、神子は黒鋼に駆け寄る。 いや、今の制度では、舞台を降りれば神子はただの人だ。 「何が久しぶりだ。3日前会っただろ。」 「3日ぶりは久しぶりですー。今日はどうしたのー?」 「・・・いや、用はねえ。」 昼休み、特にすることもなかったので何となく。 しかし、何となくで誰かの元に足が向くなど、少し前の自分では考えられないことだ。 「そっかー、オレに会いたかったんだねー♪」 「それはない。」 などと向きになって否定するところが、ファイにとっては面白くて堪らないらしい。 「今からお店に戻るのー?オレもなんか食べに行こうかなー。」 「・・・・・・神子があんなところに出没していいのか。」 「良いってことになったんですー。知ってるでしょー?」 「食べに来たついでに舞を要求されるぞ。」 「あはは、じゃあ舞う代わりに半額にしてもらおう。」 以前は大衆食堂で踊り子をしていた彼は、民とも気軽に付き合ってる。 うきうきと神殿を出ようとするファイの後ろに続きながら、黒鋼はふと舞台の方を見た。 「・・・舞台の上では、あいつの声を聞けるのか?」 気になったというよりは、思いついただけの質問。 まだこの話題はまずかったかと思ったのは黒鋼だけで、ファイはくるりと振り向いて、照れたように笑う。 「声は聞こえないけどー、存在を感じるって言うのかなー?でも黒みゅー、神様に向かって『あいつ』なんて言ってると、天罰が下るよー?」 「・・・・・・そんなヤツか、神っていうのは。」 「ううん、いい人だよ。優しくて、暖かくて。」 神は神子を愛する。神子も神を愛する。 しかし、神は神子を、縛ることは望まない。 舞台を降りたら神子は人に戻る。 だから人を愛するようにと。 「あの人の願いだからねー。オレは前を向いて生きなきゃ。」 「たまには足元も見ねえと、すっころぶぞ。」 「じゃあオレがこけても大丈夫なように前を歩いてくださいー。」 「そうなるとお前は、俺の背中を見ながら歩いてることになるな。」 「んー・・・・・?」 すっと自分を抜かしていった黒鋼の背を見て、ファイは成るほどと頷く。 前を見て生きるということは、彼の背を追うということになるのか。 しかし、過去にとらわれて後ろばかり向いていた自分に、最初に前を向けと言ってくれたのは黒鋼で、そのきっかけに導いてくれたのも、よく考えれば彼だった。 それならこういうのも。 「悪くないねー。」 そういって笑うと、前を行く彼の顔が、少し赤らんだ気がした。 この島は今日も平和だ。 =後書きというか言い訳というか= 最後だけほのぼの最後だけ黒ファイ。 なんでしょうね、この話!(爆) 腰布萌から書き始めました。黒ファイの予定でした。 無駄に長くて驚きです。アシュラ王が大好きです。 ついにアシュラ王神様にしちゃったよ雪流さん! いやあ、流石。彼はスケールが違いますね(お前だよ) 対する黒鋼はただの強姦魔です。しかも途中から出番がありません。(おわ。) 雪流さん的にアシュファイ過去話あたりで萌え尽きて、残り3話が難産です。 伝統が消えていく様を見るようで悲しいよ、とか感想いただきました、どうも。 腰布なんていうビジュアル的な萌はイラストで描くべきだったと反省。 そのうちイラストでも腰布やりますよ!(飽きないね) こんな長い話を最後まで読んで下さってありがとうございました。 黒ファイ、リハビリして出直してきます・・・。 BACK |