星に願いを2




七夕、という祭りがあるのだそうだ。
笹の葉に願いを書いた短冊を吊るしておくと、その願いが叶うらしい。と、黒鋼がファイに説明しているのを、小狼は少し離れて聞いていた。
本来は、天の川に引き裂かれた恋人達が、一年に一度会える日なんだとか。
話し手に似合わないロマンチックなラブストーリーに耳を傾けながら、何処にでも似たような祭りがあるものだな、と想いを馳せる。以前父と旅した国でも、同様の祭りを体験した。
(あの時は、なんて書いたっけ・・・)
確かまだサクラに出会う前で、
(何にも・・・書けなかったんだっけ・・・・・・・)
感情の表し方すらよく分からなかった頃で、何かを願うということがそもそもどういう事なのか分からなくて。

「はーい、先生、質問でーす!」
不意にファイの陽気な声が響いて、意識が現在に引き戻される。
「対価はどうやって届けるのー?」
「対価?そんなもんはいらねえ。どっかの誰かと違って、織姫と彦星は太っ腹だからな。」
得意気に語るのはいいが、侑子に聞かれたら呪いでもかけられそうだ。

(願い、か・・・)
せっかくだから、今回は一枚くらい。と、思ったのだが、一体何を願ったものか。
(サクラの羽・・・)
いや、それは自分の力で何とかするから。これは願いではなく決意。
何処の誰とも知れない恋人達に頼む必要はない。
それに、羽をすべて集めても、サクラの中に小狼の記憶は戻らない。
その二人が次元の魔女に勝てるほどの力を持つのなら、願ってみようかとも思うが。
(返り討ちにでもあったら申し訳ないし・・・)
などと考えていたとき、サクラが寝ていた部屋の扉が開いた。目が覚めたようだ。
モコナが早速、短冊を手にして跳んでいく。黒鋼の話を聞いていなかったサクラには七夕の説明からだが、それは彼(?)に任せてよさそうだ。

「はい、小狼君ー」
「え?」
サクラに気をとられていた小狼は、突然差し出された短冊に驚く。いつの間にかファイが隣に膝をついていた。ニコニコと楽しそうな笑顔。彼は結構イベント好きだ。
「これに願いを書いてねー。一枚で足りなかったらまだいっぱいあるからー。」
「あ、おれは別に・・・」
「今夜は雨が降りそうだから、願いが叶うかどうかは難しいみたいだけどねー。」
「・・・雨が降ると駄目なんですか?」
それは初耳だ。
「うん。雨が降ると天の川が増水して、彦星さんは川を渡れなくなるんだってー。」
それはまた軟弱な。対価を必要としない分、確実性は低いらしい。

などと感心しているうちに、手には一枚の短冊が押し付けられていた。ファイはウキウキと自分の願いを書きに戻る。そしてまた黒鋼とわいわい騒いでいる、と言えば楽しそうに聞こえるだろうか。実際に楽しそうなのはファイだけだ。黒鋼はまた何やら怒鳴って、部屋で書くと立ち上がる。
彼の願いはきっと、自分の国に帰ること。いや、それは魔女に頼んだからもう頼まなくていいのだろうか。
では強くなること、強い相手にめぐり合うこと、魔女に支払った対価の奪還かもしれない。
(サクラは・・・)
具体的には分からないが、きっと、優しくて温かい願いを。
(ファイさん・・・ファイさんは・・・・・・)
何を、願うのだろう。分からない。きっと、強い願いはあるのだろうが、彼はそれを、決して表に出そうとはしないから。

(何て、書くんだろう。)
視線を向けると、ファイは丁度何かを書いているところ。
筆の動きでは字が判別できない。否、小狼も、ファイの国の言葉は読むことができない。黒鋼の国の字は、何となくなら分かるのだが。
じっと見ていると、願いを書き終えたらしいファイは一度その短冊を読み直して

小さく、切なげな笑みを浮かべた。

(え・・・・・・)
それはほんの一瞬。いつも自分達に見せるものとは明らかに違う笑顔。けれど直感する。きっとそれが、彼の素顔。
そんなに悲しい願いなのだろうか。
願っても、決して叶わないような。願うことすら、虚しく感じてしまうような。

「・・・・・・」




願いを書いたら短冊を笹に結びつける。日暮れの外は、少し雲が多いか。朝までもつか心配だ。
ここで人の願いを見るのはタブーだが。
「小狼君、何て書いたのー?やっぱりサクラちゃんの事ー?」
興味津々に訊いて来るファイは、言いたくないといえばきっと追究することもない。どうせ字は読めないし、それに、読まれて困ることもなかった。
「いいえ、姫の事は、自分で何とかしますから。」
だから一枚だけの短冊には
「『晴れますように』って、書いたんです。」




どうか今夜、貴方の願いが叶うように


            ――――いつか、その笑顔も晴れますように






今年は小ファイで責めてみました。
去年の(『星に願いを1』)とリンクしているようでしていない話。
だってまさか続編が出来るなんて思ってなかったんだもの・・。
前作の黒鋼さんとこの話の小狼と、どっちの方がファイさん愛してるかって・・・。
きっと見比べちゃいけないんだ。愛情表現は人それぞれなんだから。
大体愛なんて奪ったもんがちですしね!(少年かわいそう!)
来年は桜ファイになるのかってそれはきっとない。




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