アシュラは約束どおり、ノートの所有権をファイに戻した。
アシュラの命なら仕方がないとファイは所有権は受け取ったものの、黒鋼への嫌悪は激しく、部屋に立ち入る事さえ拒否するほどだった。以前はルールだからと強く出たが、今となっては嫌がっているものを無理強いする気も起きず、窓の外に居ると、黒鋼は自ら距離を置いた。要するに、常にファイが見える位置にいれば良いのだから。お互い苦しい思いをするのに、無理に側に居る必要はない。
それに、もう決めたのだ。ノートをアシュラから取り返し、ファイのもとを去って死神界に戻ろうと。

アシュラからノートを取り返すためにはどうしたらいいだろうか。黒鋼は、ファイの部屋の窓の外で、彼なりに考えた。ファイの前から姿を消すと言っても、ノートは返してはくれないだろう。人間の心に疎い死神でも、流石にそれくらいは予想がつく。ノートに魅入られた人間は、そういうものなのだと。
明日、王の葬儀の後、アシュラの即位式が行われる。
人間とは、悪を排除せずにはいられない生き物だ。そしてアシュラは言った。『力の存在こそが悪だ』と。ファイでさえ、魔女だと判定されれば火炙りになっていただろうという。それなら、決定的に悪であるノートの存在を人々に公表すれば、人間はそれを排除する事を望むのではないだろうか。
それが、死神の精一杯の思考回路。

見上げると、月が輝いていた。死神界にはない、優しい輝き。まるで、あの日のファイのような。
部屋の中を覗く。ファイはもう眠っていて、けれど、布団がごそごそと動く。
「ファイ・・・?」
耳を澄ますと、乱れる呼吸の中に、死んでいった者たちを呼ぶ声が混ざっていた。
「また・・・うなされてるのか・・・」
少し迷ったものの、窓ガラスをすり抜けて室内に入り、そっとファイの手を握る。以前ファイに求められた、良い夢が見れるおまじない。こんな自分の手では、そんなものにはならないと思うのだけれど。
「悪かったな・・・。明日・・・帰る・・・。もう、苦しめねえから・・・。」
呟いた声が聞こえたのか、それとも本当にまじないが効いたのか、ファイの呼吸が少し落ち着く。けれど僅かな間をおいて、ファイの瞼がゆっくりと上がった。
「っ・・・・・・」
起こしてしまったのだと気付いて、咄嗟に手を引く。その動作で、ファイは初めて黒鋼が隣に居ることに気付いて、ばっと体を起こした。
「っ・・・」
悲鳴を堪えたのは、冷静さゆえか、あまりの恐怖ゆえか。それ以上怯えさせないように、黒鋼も体を引く。
「悪かった・・・出て行く。」

また窓の外に戻る黒鋼の背を見送りながら、ファイは恐る恐る、死神に触れられていた手を見た。悪い呪でも掛けられたのかと思ったのだが、見た目には何も変化がない。
(なんだったんだろう・・・)
冷たくて、不気味な手。けれど、ほんの少し、優しい。
(あれ・・・?)
その感触を、知っている気がした。
「ねえ、待って!」
思わず、呼び止める。言葉を交わすことも恐ろしいけれど、訊かなければならないことがある。
「魔女裁判のとき・・・熱湯の中でオレの手を握っててくれたのは・・・君だったの・・・?」
「・・・・・・」
黒鋼は振り向いてしばし沈黙すると、
「違う。」
そう答えて、またファイに背を向けた。
当たり前だ。死神が、人の命を救うなんて。けれど、拒んでいるのは自分のはずなのに、逆に彼に拒まれたような、妙な寂しさに襲われたのはどうしてなのだろう。
「ねえ・・・オレ・・・君を知ってる・・・?」
自分で訊いておきながら、妙な質問だと思った。そんなこと、自分が1番良く知っているはずだ。でもそれならどうして、黒鋼は驚いた顔で振り向いて、そして寂しそうな目をしたんだろう。

「・・・1つ、頼みがある。」
黒鋼は、ファイの質問には答えなかった。
「明日、あいつの国王就任の儀式には、人間がたくさん集まるんだろう?」
「う、うん・・・儀式って言うか・・・挨拶かな・・・。中庭にまで人を入れて、二階から新しい王として、民に挨拶するんだ。」
「そのときに、これを。」
黒鋼は、自分が持っていたノートをファイに渡した。
「ページを細かくちぎって、窓から撒いてくれないか。」
「・・・?紙吹雪にするって言う事・・・?」
「ああ。そうだ。」
「でも・・・このノートは・・・」
「頼む。」
黒鋼は、懇願を込めて、ファイを見つめた。
「一度だけで良い。俺を、信じてくれ。」
「う・・・うん・・・」
黒鋼の顔があまりに真摯だったから、ファイは頷いて、ノートを受けとってしまう。
黒鋼は、ほっと微笑んで、ファイに顔を寄せた。
「え・・・?」
驚いた瞬間にはもう、唇が触れ合う。ほんの一瞬だけだけれど。
「一番大事な奴に、するもんなんだろ?」
あまりのことに言葉を失うファイにそう言うと、黒鋼は今度こそ窓の外へ戻った。

質問を、間違えたのかもしれない。自分が彼を知っているかどうかではなく、彼がこちらを知っているのかと訊くべきだったのではないか。魔女裁判の翌日、初めて彼にあったあの瞬間から、彼の視線には、言葉にはされない想いが込められていた気がする。
(でも・・・どうして・・・?)
考えても答えは出なくて、渡されたノートをめくってみる。そこには、誰かの名前が、様々な言語で記されていた。これだけの人間を殺してきたのだろうか。また、黒鋼への恐怖が増したけれど、その1ページ目を破りとる。
(約束・・・したし・・・)
紙吹雪。明日は出席しなければならない儀式が多いから、作るなら今夜中しか時間がない。というのは言い分けで、本当はもう一度眠って、また悲しい夢を見るのが怖かった。
これに、どんな意味があるのか分からないけれど、ただ、あの死神は、こちらが苦しむような事はしない。根拠はないけれど、そんな気がした。


しかし、結論から言えば、黒鋼の計画は、失敗したと言わざるを得ないだろう。
物語は、最愛の者の死という、ファイにとって最後にして最大の悲劇で幕を閉じる。


翌日、午前中に王の葬儀が行われ、午後からはアシュラの即位式が行われた。そして、正式な新国王として、民への挨拶。
ファイは、3階の自室に戻っていた。挨拶はアシュラだけの仕事。正式な儀式とは違い、ファイに同席の義務はない。この場所からなら、紙吹雪も綺麗に撒けるだろう。ノートはすでに、全てのページを粉々に破いておいた。名前を書けば人を殺せるノート。だから、誰の名も書き込めないくらいまでに、細かく。
窓を開ける。下から歓声が聞こえたから、アシュラが民の前に姿を現したころだろう。
そこにいた黒鋼と目が合った。何か言おうとしたのだが、言葉が思い浮かばないうちに黒鋼に目をそらされた。
その目がとても寂しそうに見えた。けれど、それを確認する前に、黒鋼はアシュラのほうに舞い降りてしまった。
何をするつもりなのだろう。分からないけれど、ノートの切れ端を、まずは一掴み、手ですくって窓の外に差し出す。穏やかな風がそれを受け取って、アシュラと、下に集まった民の上に舞わせた。


アシュラは歓声に迎えられた。
悲しい事件が続き、ついに国王までが命を落とし、国中は悲しみに沈んでいる。新しい王の誕生に、人々は希望を見出したいと望んでいる。
もともと、アシュラに対する信望は厚い。4人の王子の中でも特に政に優れ、王が倒れた後は、すでに政務のほぼ全てを担っていた。加えて、『神に愛される王子』であるファイとの仲も、王家の中で誰よりも良い。きっと、『アシュラ王』の誕生は、天も祝福なさる事だろうと。この即位で、連続する悲劇が、断ち切られれば良いと。
歓声がやみ、アシュラは民に言葉を発しようとする。しかし、小さな歓声がそれを阻んだ。
ひらり、と。小さな紙片が舞い落ちてくる。
見上げると、それは、ファイの部屋の窓からだった。
(紙吹雪か・・・)
祝福だと思った。

そんなアシュラの後ろに、黒鋼が舞い降りてくる。
「何の用だ、死神。」
民には聞こえないように、小声で問いかける。黒鋼は、アシュラが恐らく最も望んでいるであろう答えを返した。
「死神界に戻る。」
「そうか。世話になったな。」
心にもない言葉を、と、責める様なことはしない。黒鋼の目的はただ1つだけだ。
「ノートを返してもらう。」
「それは出来ないな。」
予想通りの答えだった。
「ノートはまだ必要だ。」
「ファイのために?」
「ああ。」
心にもない言葉を、と。責める事はやめておいた。アシュラが拒否しても、きっと彼は、ノートを手放さざるを得なくなる。ノートは舞い続ける。無数の紙片となって、民の頭上へと。

ざわり、と、民衆の間でどよめきが起こった。悲鳴を上げるものも居る。皆が、畏怖の目で、アシュラを見上げる。いや違う、正確には、その背後に立つ黒鋼を。異様に大きい手と鋭い爪を持ち、背中から黒い翼を生やした生き物の姿を見つめる。
「!?」
アシュラは、はっと黒鋼を振り返った。
「俺のノートを撒いた。この紙吹雪に触れた人間には、俺の姿が見える。力の存在こそが悪なら、そのノートはこの世界に存在すべきじゃねえ。そのノートは、ファイを幸せにはしない。」
「貴様・・・!」
「ノートを返せ。お前が拒否しても、下に居る人間たちが、悪の排除を望むぞ。」
ファイでさえ、魔女だと判定されれば、火炙りにされていたという。決定的に悪であるこのノートを、人々が排除しないはずがない。その声に、国王たるアシュラが、応えないわけにはいかない。それが、死神が考えた、精一杯の作戦。

アシュラは、頭上を仰いだ。紙吹雪は、ファイの部屋の窓から舞い続けている。
「ファイ・・・お前が・・・」
アシュラは懐に手を入れる。
「お前が私を・・・裏切るなんて・・・」
祝福だと思ったのに。
ノートを取り出して開いた。右手にはすでに、ノートと一緒に隠し持っていたペンを。
「っ!!」
ファイの名前を書くつもりだ。黒鋼は咄嗟に、いつも腰に吊るしているノートを探す。けれど、それは今はもう無数の紙片となって、ノートとしての役割を果たさない。だが、ただ一枚だけ。
ファイにノートを渡す前に、抜き取っておいた破れた一ページ。すでに名前で埋め尽くされているけれど、余白にアシュラの名前を記す。
それが、ファイにとって最悪の結末となることを、考える余裕はなかった。ただ、ファイを救いたい一心だった。
アシュラの手から、ノートが落ちる。
「兄上!」
三階から様子を見守っていたファイが、そう叫ぶのが聞こえた。恐らく、すぐここに来るだろう。

黒鋼は、アシュラの名を書いたノートの一ページを落とした。それは、かつて自分の名が記され、ファイがそれを消して破り取ってくれた、あの一ページだ。まさか、このページで、ファイの一番大切なものを、奪う事になるなんて。
そこに書かれた自分の名を確認し、アシュラががくりと膝を折る。
「後40秒か・・・」
「・・・・・・」
ファイの名は、書きあがったのだろうか。黒鋼はアシュラが落としたノートを拾い上げる。そして、予想とは違う名に目を見開いた。

黒鋼。

この国の言葉で、確かにそこには黒鋼と。
「・・・ファイの名を書くのかと思った・・・」
「書くわけがないだろう・・・。私はいつだって・・・あの子の幸せだけを望んできた・・・」
この腕の中で、幸せにしてやりたかっただけなのに、永遠に、彼を抱きしめられない場所に行かなければならないなんて。
「家族の命を奪い、実の父親に死神と呼ばれようとも・・・ただあの子の幸せだけを・・・」
それが叶わないのならせめて、ファイを奪った黒鋼だけでもと。
「このノートで・・・死神は殺せねえ・・・」
「そうか・・・。では、そのノートを持って、死神界に帰るが良い・・・。」
「悪いが・・・それも出来そうにねえ・・・。」

死神を、殺す方法がある。特定の人間に行為を抱かせ、その人物の寿命を延ばす目的で、ノートを使い他者を殺させることだ。結果的にファイの寿命を延ばした事にはならなかったけれど、黒鋼はファイを助けるために、ノートを使ってしまった。
「俺も、ここで死ぬ・・・」
その方法を教えた事はなかったから、ここまではアシュラのシナリオではなかっただろう。だが、アシュラは黒鋼を殺すことになった。しかし、彼はそれほど喜ばなかった。これから自分が死へ向かう事の、諦めの方が大きかったのだろう。
「・・・お前がファイの側から消えるのなら、なんでも良い・・・。」
力なくそう言い、アシュラは胸を押さえた。40秒だ。ファイは、間に合わない。
「お前はファイの側で死ね・・・。私を殺したことを罵られながら、ファイに恨まれて死ぬが良い・・・」
「・・・分かった。」
そんなことで、ファイから一番大切なものを奪う、この罪が償えるなら。
アシュラの体が倒れた。目は、もう開かれない。

死神が死ぬと、体は砂のようなものに変わり崩れ落ちるという。黒鋼の体も、砂に変わり始める。ノートと破り取ったページを拾い、黒鋼は城の中へ入った。
すぐに、駆けてくるファイを見つける。ファイも、黒鋼を見つけて足を止めた。
「・・・兄上は・・・?」
「・・・・・・」
黒鋼は、アシュラの名を記したページを差し出した。受け取って、ファイはその場に崩れ落ちる。悲鳴に似た声が、廊下に響いた。
「悪い・・・信じてくれって言ったのに・・・。」
黒鋼は、ファイの前に膝を付いた。
「俺も、もう死ぬ・・・。」
「っ・・・」
ファイがはっと顔を上げる。そして、黒鋼の体が砂に変わっていくことに気づいた。
「なんで・・・」
「死神は、誰かの寿命を延ばすためにノートを使うと、死んじまうんだ。」
「・・・・・・嫌・・・嫌だ・・・!待って・・・!!」
黒鋼は、僅かに目を見張った。そんな言葉がもらえるとは、思ってもみなかった。

けれど、そのときすでに、奇跡は起こっていたのだ。

ファイは望む。
「オレの寿命を半分上げる・・・!オレと目の取引を・・・!!」
「ファイ・・・?」
魔女裁判以降、目の取引の話しをした記憶はない。だからその台詞は、ファイの記憶が戻ったことを疑わせるには十分で。そして、ファイは、あれ以降初めて、彼の名を口にしたのだ。
「オレを独りにしないで・・・!黒鋼!!」





「王子様の記憶を戻したのは、かつて王子様が、死神の名前を消したあのノートの1ページ。名前を書き込んだわけではないけど、何らかの目的を持って何かを書き込むことを使うと称するなら、名前を消すという行為も、使うということに含まれたんだろうね・・・。王子様が一時所有したのは、ノート全体じゃなくて本当にその1ページだけだったから、記憶を取り戻すには、その1ページに触れる必要が合ったんだ。」
「王子様と死神は、その後どうしたんですか?」
幼い王子は、王に尋ねた。何度も聞いた話、その結末は知っているから、それは話の先を促すための質問だ。
「王子様は、ノートを巡って起こった事の全てを国民に話したんだよー。彼は、皇位継承権の剥奪や、悪ければ火炙りまで覚悟していたんだけど、すべては第二王子様がしたことだったし、それに、全てを明らかにするその潔さに国民は心を打たれ、彼は王となり国を治める事になったんだ。」
「死神は、ノートを持って死神界に帰ったんですよね?」
「そういうことになってるけど・・・」
王は、少し声を落として、王子の耳元に顔を近づけた。
「君にだけ、真実を教えてあげるね。死神は、人間界に残ったんだ。」
「え・・・?」
「死神が一度死に瀕したためか、それとも粉々に破いたノートをその後死神がすべて燃やしたせいか、死神の姿は、ノートに触れた人々の目にも見えなくなった。でも、死神は王子様が死ぬ最後の瞬間まで、彼の側にいたんだよ。」
「じゃあ、ノートは死神に返したって言うのは?」
「ノートは燃やした事にしたんだ。でも本当は、死神がノートを必要としたときにすぐに取り出せるように、王子様が内緒で隠してあったんだー。」
「じゃあ、ノートは最終的には死神に戻ったんですか?」
「さあ、それはどうだろー。」
「え・・・?」
「物語の、本当の結末を知りたい?」
「はい!」
「じゃあ、これを。」
王は、王子に封筒を差し出した。
「明日の朝になったら、開けて読んでみて。死神と王子様の本当はどうなったのか、これを読めば分かると思うから。」
「本当に?」
「うん。でも、それは誰にも見つからないように隠しておいて。」
「はい!」
王子は、王の膝から飛び降りて、封筒を隠すために部屋を飛び出していった。

「あの封筒の中身は?」
不意に、王の背後から声が聞こえた。王は答える。
「王子様が隠したノートのありかを。」
「ノートは燃やしたんじゃなかったのか。」
「・・・・・・少し、散歩に行こうかー。」
王は、声の主を誘って立ち上がった。
2人は、城を出て、バラ園の中を歩いた。そして、王子様が初めて死神を見たあの場所で足を止める。
「この下に、埋まってるんだ。必要なら、取り出していいよ?」
「・・・いらねえ。」
「そう言うと思った。」
王は、くすくすと笑った。
「あの手紙には、もしこの場所を掘り起こして、ノートがなかったら、死神はノートを持って死神界に帰った。ノートがあったら、死神は王子様と一緒に死んだんだって書いてあるんだ。」

物語は、まだ続いている。

「あと、ノートを見つけたら、誰にも知らせずに燃やして欲しいって書いたよ。あの子なら、きっと燃やしてくれる。」
「・・・そうだな。」
そして、ノートの消滅を以って、物語は本当の終焉を迎えるだろう。それを、二人が確認する術はない。明日の朝、2人はもう、この世にはいないから。

二回の目の取引で、王子の寿命は4分の1。若すぎる死を民は嘆くだろうが、それもあのときに全て、話しておいたことだ。
「後悔はねえか?」
「父上はオレに言ったよ。『何を信じるのか。何を想うのか。本当に大切な事は、自分で決めるものだ』って。オレはあの時、信じるものを間違えたとは思わない。ただ・・・後悔があるとすれば・・・兄上を止められなかった事。」
彼が間違ったときは、正してやるようにと、それも父は言い残していたのに。
「でも君がいてくれたから、オレは独りにならずにすんだ・・・ありがとう、黒鋼。」
「ファイ・・・」

死の間際に行った目の取引で、王子の残りの寿命の半分を貰い、死神の寿命は王子と同じ。2人は、同時に死を向かえる。黒鋼は、それが今日だとファイに教えた。それは死神界のルールを破る事だけれど、もう帰るつもりのない世界のルールなどどうでも良い。仲間を求めて訪れたこの世界で、何よりも大切なものを見つけた。
「キスを・・・していいか・・・」
「・・・」
それは、一番大切な人にするもの。黒鋼の問いに答える代わりに、ファイは静かに目を閉じた。
唇が、重なり、離れる。
「ねえ、手を、繋いでいて。」
ファイは願い、黒鋼は叶えた。恐ろしくはない。あの日からずっと、繋いだ手の感触がお互いを支えてくれた。最期の、この瞬間まで。


数刻後、バラ園の中で倒れている王が発見された。
すでに息はなかったけれど、彼の顔は、誰かと手を繋いで眠っているかのような、とても安らかなものだった。






------------------------------
おしまい。
いかがでしたかね、ツバサでデスノパロ。パロって言っても、本家のような推理合戦みたいな要素は全然ないですが、デスノの死神設定はとても萌える!というこの熱い想いが伝われば満足です。
アシュラ兄さんは残酷なキャラみたいに描いちゃったけど、本当にただただファイが大好きで仕方なかっただけなんです、ということもちゃんと伝わってればいいなあ・・と思うんですけども。
なにはともあれ最後までお付き合いいただきありがとうございました!




                               BACK