君に贈る最高の愛の光






「昴流君、誕生日に欠かせないものは何だと思いますか?」
「・・・ケーキとロウソク・・・ですか?」

仕事帰りにドライブを楽しむ車の中、不意に星史郎が口にした質問の意図が掴めず、昴流は眼差しに疑問をこめて星史郎の横顔を見る。運転中の星史郎はちらりと一瞬だけ昴流を見返して、口元だけで笑った。

「今日、誕生日なんです。」
「・・・・・・誰がですか?」
「僕がですよ。」
「・・・・・・ええっ!?」

思わず驚愕の声があがる。

「星史郎さんの誕生日は4月1日じゃ・・・」
「覚えていてくれたんですか。ありがとうございます。」
「いやあの・・・今日は、11月22日では・・・?」
「はい、良い夫婦の日ですね。」

にこにこと、どうでも良い事を口にする星史郎だが、一体どちらが本当なのか。
(4月1日って・・・言われて見ればいかにも嘘っぽいかな・・・。でも良い夫婦の日って言うのも・・・)
うーんと頭を抱える昴流を横目で見て、星史郎は小さく笑みを漏らした。

「・・・・・・これも嘘ですか?」
「いいえ。11月22日は本当ですよ。」
そういって星史郎は車を止める。信号につかまったようだ。
前を見ている必要がなくなったので、昴流のほうを向いて、
「もう、君に嘘はつきません。」
そう宣言する瞳には、珍しく誠実さがこもっていた。

考えてみれば、生年月日や出身地を偽るのは、昴流たちのような術者にとっては当たり前のことで、星史郎の誕生日を知ったとき、確か昴流も出身地を偽って答えた。星史郎は最初から知っていたようだが。

「どうして突然・・・本当のことを教えてくれるんですか?」
「昴流君には、本当の誕生日を祝ってもらいたいなと思いまして。」
さらりとそんな台詞を口にする。
彼はこちらが照れるほど、そんな台詞が似合うのだ。

本当の生年月日を知られるということは、弱点を握られるようなものだから、それを教えてくれるということは、特別な存在だと思ってくれている、ということでいいのだろうか。

「昴流君、」
「あ、はい。」
色々と考え込んでいる間に、いつの間にかまた車は走り始めていた。目を合わせない会話が続く。
「残り20分です。」
「・・・何がですか?」
「今日がですよ。」
そう言われて腕の時計を見ると、確かに現在11時40分。
後20分で、星史郎の誕生日が終わってしまう。

「ど、どうしましょう・・・!こんな時間じゃ、ケーキ屋さんも開いてないし・・・!」
「ケーキがないと駄目ですか?」
慌てた昴流に、星史郎は人事のように尋ねる。
「だって、誕生日はロウソクを消さないと・・・」

バースデーケーキにさしたロウソクを一息で消せると、その一年、幸せに過ごせるのだと、昔北都が言っていた。
だから昴流たちは、誕生日は必ずケーキにロウソクを立てることになっていて、双子でケーキは一つでも、ロウソクだけはちゃんと一人ずつ消すことになっているのだ。

「別に消せなかったからといって、不幸になるわけでもないでしょう。」
「でも・・・。」
「確かに、ケーキがないと誕生日という感じがしませんね。」
昴流の台詞を先取るように、星史郎はハンドルを切った。車を停車させたのはコンビニエンスストアの駐車場。

「星史郎さん?」
「ケーキくらいなら売っているでしょう。20分間の即席パーティーには丁度良いですよ。」
「・・・買ってきます!」
急いで車を降りていく昴流の背を見送りながら、星史郎は小さく笑う。



誕生日に欠かせないものは、ケーキとロウソク。

「はずれですよ、昴流君・・・」



「星史郎さん・・・」
少し待っていると、昴流がビニールの袋を提げて、浮かない顔で戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「あの・・・ロウソクがなくて・・・」
「ああ、さすがにありませんか。」
12月なら、クリスマス用のものを置いていたかもしれないが。

「仕方ありませんね。乗って下さい。もう少し暗いところへ移動しましょう。」
「え、でも・・・」
「ロウソクは、代用品でもいいでしょう?」
そういって、有無を言わさず星史郎は車をコンビニから少し離れた路傍に停めた。深夜の街を照らすコンビニの明かりは、誕生日を祝うには少し強すぎる。

「ライター持ってますか?」
「え、持ってますけど・・・」
「それがロウソクです。」
「あ・・・」

つまり、昴流が灯すライターの火を、ロウソク代わりに消すのだと。
昴流は言われるままにライターをつけて、星史郎に差し出した。
「バースデーソングはなしですか?」
「う・・・歌はちょっと・・・」
オレンジ色の光の中で、仕方ないなと苦笑して、星史郎はふっと火を吹き消した。頼めば歌ってくれただろうが、ライターを持ったままでは手が熱いだろう。

11時55分。儀式めいた誕生日祝いは一通り終了だ。

「じゃあ、ケーキでも食べましょうか。」
室内灯をつけて星史郎がケーキのふたを開ける。
二つ入り349円のコンビニのショートケーキは、少し安っぽい味がしたが、たまにはこういうのも良いかもしれない。

しかしもうひとつ。

「昴流君、誕生日欠かせないものは、何だと思いますか?」
ケーキの上のイチゴだけ先に食べて、星史郎が再び尋ねる。
「・・・ケーキとロウソクでは・・・?」
「はずれです。」
あっさりそう言われて、昴流は首をかしげる。
「プレゼント・・・ですか?」
「いいえ。」
「・・・・・・分かりません。」


「祝われる者と祝う者。僕と君ですよ。」


「・・・・・・。」
「納得がいきませんか?」
「いえ・・・そんなことは・・・・・・」
ないのだが、どこの口説き文句だという感が否めない。
この人の台詞は、いつもどこかくさくて

そしてどこまでも真実だ。

「あ・・・・・・・・・・・」
「どうしました?」
「・・・・・・おめでとうございます。」
「はい、ありがとうございます。」
やっと満足げに、星史郎は満面の笑みを返した。

そう言えば、まだ言っていなかったのだ。誕生日という一日に、一番大切な一言。
ロウソクもケーキもなくても、その言葉だけで誕生日祝いは成立するのに。

「すいません、僕・・・」
「いいえ。間に合いましたから。」
そう言って星史郎が指した先で、デジタル時計の表示に0が3つ並ぶ。
日付が変わればそれはもう、誕生日の翌日というだけのなんでもない日。
もうケーキもなくなった。

ひとつ納得がいかないとすれば。

「もっと早く言ってくれれば良かったのに・・・」
22日が誕生日だったということ。
「すいません。僕も忘れていたので。」
長い間、祝ってくれる人がいなかったから。

祝ってくれる人がいなければ、誕生日など意味がない。
それもまた、生まれた日と同じ日付というだけの、なんでもない日。

「・・・・・・・来年は22日になった瞬間に言いに行きます。」
「・・・お待ちしています。」

22日になった瞬間にその日の訪れを祝ってくれるのなら、自分は22日の初声で愛しているとでも囁こうか。
そんなことを考えながら、星史郎は再びハンドルに手をかけた。






『口説き文句は真理を語る』という言葉をご存知ですか。
友人が作りました。(知るか)
星昴を書くときはまず、星史郎さんにどんなくさい台詞を吐かせるかを考えます。
今回最初に出てきたのは、
「僕は君に祝ってもらうために生まれてきました。」(爆笑)
あまりにも使えないのでこれはテーマということにして、
「誕生日に必要なものは君と僕」
に落ち着き。
これを友人と考えている間が一番楽しい。
皆好き勝手言いますから。
プレゼントシリーズだったはずなのにプレゼントがないことに気づいた。( ̄д ̄川)





                         BACK