夢と現のハザマ






漆黒の闇、だった。
彼はその中にいた。華奢な体は、そのまま闇に呑まれてしまうかと思う程頼りなく、普段なら、さぞや美しいだろうと思われる金の光はくすんで見える。それほどまでに、この闇は深い。
彼は立っていた。何をする訳でもなく、ただ立っていた。何もない。何も考えなくていい。それがひどく、心地良い――。     
(ずっとここにいたいな…)
きっと、許される筈のない望みだと分かっている。それでも彼はそう強く思った。この闇は、彼を、彼の運命から覆い隠してくれているようで――。



ファイは目を覚ました。途端にカーテンの隙間からもれてくる陽光に視界を奪われる。ファイはゆっくりと、ベッドの上にその身を起こした。時計を見ると、時刻は11時――。昼近くまで眠っていた自分に、一人苦笑する。   (ま、しょうがないかー。いい夢だったしー)   
真っ暗闇のどこがいい夢だ、と黒鋼がいれば言ったかもしれない。そう思って、再び苦笑する。     

「何がおかしいんだ」   
突然かけられた声驚いてファイは顔を上げた。見上げると、黒鋼の自分を見下ろす視線とぶつかった。 
「…あ…黒たん、…いつのまに?」         
「あぁ?まだ寝てんのか?最初っからいたじゃねえか」
「えっ…?…って、あ…そっか…オレ、黒様と相部屋だったっけー」     
すっかり忘れていた。いや、忘れていた事より、始めからいた黒鋼にきづかなかった事が不覚と言うべきか。いくら寝起きと言えども、今までに一度もそんな事はなかった。目覚めた瞬間から、仮面を被れるように、ずっと気を張っていたのだから。  

(やっぱり、あの夢のせいかなぁー。気持ちよかったし)    
素顔を隠すのを忘れさせる程、あの夢はファイに影響を与えた。       
(あんなの、ただの夢じゃないー)         
そう自分な毒づいてはたみたが、それでも事実はかわらなかった。――もう一度、あの場所に帰ることを望んでいる事実。苦しみも恐れも、喜びすらない虚無の世界――。  

ふど感じた視線に目を向けると、黒鋼が痛い程の視線を自分に注いでいる。  
「どうしたのー?」    
「…いや、先に降りてるぞ。小僧達は起きてるだろう」           
そう言って、さっときびすを反した黒鋼は、扉の前で、はたとその動きを止めた。どうしたのかと問おうとした刹那、彼の口から漏れたことばは予想外のものだった。         
「…逃げるなよ。何があっても。…自分の運命から」
驚いて言葉をなくしたファイを尻目に、黒鋼は部屋をでていった。          
「…何だかなー…もう、知らないくせに知ってる振りは…反則、だよ…」


ねぇ、水底に眠る人。  
貴方を忘れて幸せになることが、今のオレに許されるのでしょうか。     

――答えて…彼の人よ。






碧流様から頂きましたv
虚無の世界に居心地の良さを感じるファイさん、切ないです・・。
もう少し違う形で幸せになって欲しいとは思いつつ、そのままの貴方でいて欲しいとも(むしろ本音)
過去に強く捕らわれながらも、黒鋼さんの一言に揺れる想いが見事に表現されていて素晴らしいです。
アシュラ王に許可を求めてもいいよとは言ってくれないと思いますけど。(そこが好き)
黒ファイ相部屋は基本ですよね!
碧流様、素敵な小説ありがとうございました!!





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