真っ暗な  真っ暗な

闇が 広がるこの世界

戦争ばかり  平和は来ない

暗闇広がる この世界

生命無限の理(ことわり)は

先祖代々受け継がれ

今の 世界の状況は

子孫代々受け継がれ

世界は壊れ  世界は崩れ

この世に終わりがやってくる

 

 

 


音程の無い歌が聞こえた

 

 

 

残された者

 

 

 


俺は、暗闇にいた。

 


別に心当たりも無いが、何故か俺は此処にいる。

歩いても歩いても、ずっと続く、闇  闇  闇…

 

一体、此処はどこなんだ。

 

来たくて来たんじゃねえ。

旅の途中で、気が付けば、…この通りだ。

確か、異世界へ渡る途中だったと思うが。

 

 


この空間は果てがねえ。

もうかなり歩いた。

いい加減疲れてくる。

誰かが仕組んだものなのか?

だとしても、おかしすぎるだろう。

 

「………クソ」

 

刀を鞘から取り出し、やぶからぼうに振り回す。

闇は少しの間切り裂かれるが、数秒立つと、元通りに。

「ふざけやがって…」

 

 

何かに飲み込まれたかとは思ったが、

怪物でも、あんなに早く傷口は治らんだろうし、

白饅頭の中はこんなに暗くない。

第一、白饅頭の腹ン中切ったら、

「いたーい!!」

とかでも言って途中で吐き出すだろう。

…まあ、切れそうにないし、不死身に見えるが。

 

 

仕方なく、俺は歩き続けた。

果ての無い、摩訶不思議な空間を。

 

光も何も無い。

 

ただ見えるのは、自分の体だけだった。

「…何でこんなに暗いんだ?」

 

 

出口を探さねえと。

何か、目印になるもんでもありゃいいが。

…まあ、こんなところには無いだろう。

と、思っていた矢先。

 

 

ふわり

 

 

俺の耳の横を何かが通った。

「…んだ?今の」

 

そして、また

 

 

ふわり

 

ふわり

 

 

何かが通っていく。

何なんだよ、この空間…

そういえば、今の得体の知れねえ奴から、音が聞こえた気がする。

気がするだけだったのだろうか。

よく耳を澄ます。

 

 

真っ暗な

 

 

真っ暗な

 

 

……。

詩(うた)が聞こえる。

音程のない、詩が。

 

その詩は、形となって、俺の前を進んでいく。

その先には、ほんのりと小さな光が。

 


「…出口か?」

 


やっと出られるなら、ありがたい。

出られなくとも、何か情報があるかもしれないな。

とりあえず、俺は詩の後について行く。

 


詩は、俺を誘うかのように進んでいった。

 

 

 


目を開ける。

 


周りは緑が広がっていた。

草のざわつきしか聞こえない、草原。

俺は、此処に横たわっていた。

 

…夢だったのか。

 

それにしても、変な夢だった。

何であんな夢を見たのだろうか。

まだ続くような気がしてならねえ。

 

 


草原を見渡す。

少し先に、黒犬と黒猫の姿。

 

犬と猫、か。

 

不釣り合いな気がするが、結構馴染んでる様に見える。

向こうは、俺に気付いてないらしい。

 

 

左右には、無限の樹海。

森の奥は、真っ暗で見えない。

その森の奥から、何かが聞こえる。

高く、澄んだ声。

 

 


真っ暗な  真っ暗な

闇が 広がるこの世界

 

 

この詩……

さっきの夢で聞いた詩と同じだ。

何処かで聞いたことのある、記憶があふれ出そうな声。

 


「…………。まさかな」

 


声のする方へ。

重い足を動かす。

 

 


まるで、その詩に誘われるかのように。

 

 

 


この世に終わりがやってくる

 

 

 


………。

…またか。

あの空間に入ってきちまった。

もしこれが夢だとすると、俺はいつ眠ったんだ?

…やっぱり記憶がねえ。

 

………………。

 

あ゛ー、頭がグルグルしてくる。

 

 


周りはやっぱり真っ暗で。

遠くのほうには小さな明かりが。

 

…。

 

さっき居たところか。

でも、もう詩が見当たらなくなっていた。

まあ、明かりを目指せば何かあるのは間違いねえとは思うが。

 

 

歩こうとした。

 

 


戦争ばかり

 

 

平和は来ない

 

 


…またあの詩が聞こえてきた。

詩は、明かりを目指して進んでいく。

 

 


暗闇広がる

 


この世界

 

 

…まるで、今いるこの空間のことを詠(うた)ってるように聞こえる。

 

俺はついて行く。

詩は進んでいく。

 

俺を誘いながら、

惑わせようとしながら。

 

 

 

空間に入ったり現実世界に戻ったり、

体がついていかねえ。

俺はまだ、森の奥へと進んでいる。

詩の聞こえるほうへ。

 

 

 

 


だんだんと、詩の音量がでかくなってきた。

 

近づいてる、ってことか。

 

相変わらず、明かりは小せえままだが。

…まあ、近づいてるんだろう。

 


さっきから何度も詩が俺の横を通っていく。

いい加減うぜえ。

 

 

 

生命無限の理は

 


先祖代々受け継がれ

 

 

 

…生命無限の理って、どういう代物なんだ。

わけの分からないまま、俺は進んでいく。

 

 

 


今の  世界の状況は

 


子孫代々受け継がれ

 

 

 

何を表している詩なのだろう。

結構暗い詩だ。

 

 

 

ああ、もうすぐあの明かりに着くな。

かなり音量がでかくなってきている。

でかすぎる気もするが。

もう少しで、この暗闇から開放される…。

 

 

 

現実(こっち)の俺も、まだ歩いていた。

空間と同じように、音量がでかくなってきている。

まあ、空間といっても夢みたいなものだが。

 


樹海は、昼というのに暗い。

ジメジメしていて、気持ちわりい。

 

 

湿気の中に、詩が混じる。

はっきり聞こえない。

音量はでかいのに。

 

…何故だ。

 

 

 

 

この空間のほうが道が長いのだろうか。

息も切れてくる。

 

詩の音量は、でかくなる一方。

もう少し、小さくなりゃ良いんだけどな…。

 

 


いつの間にか、明かりはすぐそこまで来ていた。

さっきまでほんの少ししか灯っていなかったのに、時が経つのは早いもんだ。

もう、目の前に。

詩が、はっきりと聞こえてくる。

 

 


世界は壊れ

 


世界は崩れ

 

 


…かなり深刻な詩だな。

 

 


この世に終わりがやってくる

 

 

次の瞬間、目の前の明かりが一気に広がり、空間が無くなった。

そこに現れたのは、

 

 

 


詩の出所までもう少しだった。

1人じゃないらしい。

足音がガサガサと、重なって聞こえる。

あと少しのところで、木や草が好き勝手に伸びていて、目の前が見えなくなる。

邪魔なので、剣で斬りながら進もうとしたが、

斬っても斬っても、すぐに生えてきやがる。

仕方なく、掻き分けて進んだ。

草原といい、この樹海といい、おかしな所だ。

 

詩がすぐ近くに聞こえる。

最後の草を掻き分けて現れた、そこには、

 

 

 


…草原じゃねえか。

さっきまでいた、同じ景色の草原だった。

ったく、今までの空間はなんだったんだ?

詩が終わったと思いきや、いきなり明るくなるし…

 

…が、何かが違う。

現実の草原と、今いる夢のような中の草原。

現実の草原は、何と言うか、生気溢れる豊かな草原だったはずだ。

なのに、こっちの草原は、全く持って、生気が感じられねえ。

黒犬と黒猫も見当たらない。

何処へ行ったのだろう。

 

 


詩が、聞こえる。

草原の真ん中に、手をついて座っている奴がいる。

金髪で、服が白い…………

 


…アイツだ…。

 


アイツが詠ってたのか?

こんな草原で1人で…

何の真似だ。

 

俺は詩を詠っている主のもとへ歩いていった。

 

 

 

 

「あー!黒様発見!!」

草を掻き分けて進んだそこには、小さな広場があった。

切り株が真ん中にあり、その上には、金髪でひょろいのが座っていた。

 

あの夢 (なのか?) と同じだ。

場所は違うが。

 

奥のほうには、小僧が剣を持ち、木に手をついている。

切り株の横には、小僧の国の姫が、籠に何かを詰めてこちらを見ている。

 

 


…で。

何で、此処だけ 『秋』 なんだ?

 

さっきまでは緑が生い茂る樹海だったはずだ。

なのに、この広場は…

 

木漏れ日が差し込み、歩くと落ち葉の枯れた音がする。

木の下のほうには、茸まで生えてやがる。

…また頭がぐるぐるしてくる。

 

 


「ここは、思い通りに場所を変えられるんだよー…」

ふと、詩の主は言う。

「あんまり湿り気があると、なんか嫌でしょー?だから、丁度良いかなー、と思ってさー」

「秋は木の実が拾えるので好きです」

しゃがんでいる姫は顔を輝かせる。

小僧は、さっきからしきりに木を見ている。

 

 

「魔法でも使ったのか」

「前にも言ったでしょー?あの刺青 (イレズミ) 渡しちゃったから、魔法使えないって…」

「でも、あの魔女は『魔力を抑えるための力』って言っていただろう」

「それがねー…」

 


…………。

腹を割りそうにないので質問を諦めた。

「そういえばー、黒ぴっぴはどうやって此処に来たのー?」

「いつの間にやら変な空間にいて、目が覚めると草原にいて、そしてまた空間へ……の、繰り返しだ。草原から樹海に向かって歩いて来たら、此処にたどり着いた」

「ああ、あの草原にいたんだー…あの草原は良い所だからねー…」

「良い所?」

「うん、良い所ー。清浄な気が沢山集まって出来てるからねー…」

 

…何を言っているんだ。

さっぱりだ。

 


その時、急に目の前が暗くなる。

歩きすぎて貧血でも起こしたのか?

「今は、その繰り返しだよ…」

詩の主は、またわけのわからねえ事を言っている。

 

「いってらっしゃーい…」

そして、完全に真っ暗になった。

 

 


この世に終わりがやってくる

 

 


詩の主は草原の真ん中に寝転んでいた。

まだ、続きを詠っている。

 

「………おい」

その声に気付いたのか、詩の主はむっくりと体を起こす。

「…あー!黒様だー!」

…何だか現実世界と同じようなことを言っている。

 

「どうして此処にいるのー?」

「変な空間を歩いてきた」

「あ、もしかして、真っ暗だった?」

 


…知っているのか、コイツ。

 


「何にも見えなかったが。見えたのは明かりぐらいだな」

「明かり?」

「急にお前が詠ってる声がして、その声は明かりに向かって行ったんだ。ついて来たら、此処に着いた」

「あー確かに詠ってたよー。詩をねー…」

何だか疲れきった顔をしている。

 

「あの詩の内容、何なんだ?」

「もう1度、聞いてみるー?」

 


そう言うと、詩の主は手を着いて詠い始めた。

 

 

 


真っ暗な  真っ暗な

闇が 広がるこの世界

戦争ばかり  平和は来ない

暗闇広がる この世界

生命無限の理(ことわり)は

先祖代々受け継がれ

今の 世界の状況は

子孫代々受け継がれ

世界は壊れ  世界は崩れ

この世に終わりがやってくる

 

 

 


「ふう。終わったよー。…意味分からないでしょー」

そう言ってからも、詩の主はため息をつく。

 

「生命無限の理って、何なんだ」

「うーん、何だろねー…」

 


……とぼけてるのか?

 


「まさか、意味も知らないで詠ってたのか…?」

「だって、これ、オレが住んでた国で皆知ってたんだけどさー。意味を知る前に、旅に出ちゃった」

 

……………。

…………………馬鹿じゃねえのか…。

 

「この世に終わりがやってくる、って、来るわけないだろう」

「…くるんだよー」

 

 

 


気が付いたら、俺は切り株の横に倒れていた。

詩の主は、相変わらず詩を詠っている。

「黒んぴゅ起きた」

「その呼び方ヤメロ…」

詩の主は、懲りずに変な名前で俺を呼ぶ。

寝起きなのか、苛々 (いらいら) してくる。

姫と小僧は、さっきから同じ動作。

 

 


と、何か足りないな…

「おい、白饅頭はどうした」

 

その言葉に、詩の主、姫、小僧。

いっきに俺のほうを向く。

 

…何か俺、悪いことでも言ったか?

 

「そっかー…」

……何がそうか、だよ。

「黒ぷんは、まだ、生きてるからー…」

…。

 

 

 

この世に終わりがやってくる

 

 

 


「それは…、本当か?」

「うん。本当ー」

風が、急に強くなったり弱くなったりする。

「此処は、死の世界への渡り道。黒様が渡ってきたのは、渡り道への、渡り道」

「真っ暗だったがな」

「…渡り道ってものは、そんなものだよー……」

詩の主は、立ち始める。

 

「ここは、とても素敵な所。清浄な気で満ちているから、悪さをした人が此処に来ると、心が洗われるんだー」

オレは何も悪さしてないけどねーと、詩の主は笑う。

「…ただ、さー……」

詩の主はこっちを振り返る。

「オレは好きで此処に居るわけじゃ、ないんだよねー」

「…無理矢理なのか」

「うーん、何と言うかー」

困った顔をしながら、腕を組む。

「オレの心が、勝手に此処に来ちゃったというか…オレ自身は拒否したんだけどねー…」

 


「…で。どうなんだ」

「え?」

詩の主はとぼけた顔をしている。

「此処は死の世界への渡り道なんだろ?」

「う、うん。そうだけどー…?」

 

「じゃあ、お前は死ぬ、って事だろう」

 

風がまた、草原を横切る。

「…………」

 

 

 


「…黒みゅう?」

「まだ生きてる、ってどういう意味だ」

姫は森の奥へ消えていく。

「…忘れちゃったんだね……」

「はあ?」

枯れ葉が肩に落ちてきた。

「…じゃあ、思い出させてあげるよー」

「だから、どういう意味だか…」

そんなことも聞かず、詩の主はまた、詠いだした。

 

 


真っ暗な  真っ暗な

闇が 広がるこの世界

 

 

急に、頭が痛くなる。

 

 

 


「じゃあ、おれはさくらを…」

「うん、分かったよー」

「…有り難うございます」

小僧が頭を下げて、向こうへ駆けていく。

 

「さて、と」

「モコナ、避難場所分かる!ついてきて!」

白饅頭は、小僧が駆けていった方向とは反対に跳ねていく。

「おーい、黒たん!ぼーっとしてると、爆弾の餌食になっちゃうよー!」

「うるせえ!!」

しぶしぶ白饅頭の後を走っていく。

 

 

空から無数の爆弾が落ちてくる。

周りの民家は原型を留めていない。

「ったく、何でこんな事になっちまったのか…」

「えー?仕方ないでしょー」

「仕方ないも何もあるか」

「次元の魔女さん、『中には戦の真っ最中の国もある』って、言ってたでしょー?」

「黒鋼、忘れんぼー!!」

「あ゛ーうるせえうるせえ!黙ってろ!!!」

周りの景色のせいもあるが、どうも落ち着かねえ。

 

 

 

急に意識が戻る。

「…?」

「あー、駄目だよもう少し我慢してなきゃー」

「はあ?」

詩の主は、喉が嗄れるまで詠い続ける。

 

 

戦争ばかり  平和は来ない

 

暗闇広がる この世界

 

 

 


遠くで、爆弾の音がした。

「ひゅーっ!でっかいねー!」

「喜んでる場合か!」

「あははーそうだねー!」

 


俺は逃げるのに必死だった。

なんせ、剣だけではあんな物に勝てるわけがない。

「…今落ちた爆弾の方向、小狼君が向った所だねえ。無事に帰ってこれるといいけどー…」

「…」

そう言えば、あの小僧は姫を助けに行ったんだったな…。

 


「あー!あったあ!あそこだよー!」

モコナが見ている所に、避難所があった。

「わーい!やっと助かるのかー」

「助かるとはまだわからねえだろ」

 


案の定、そうだった。

 


避難所は、外見は保たれていたが、中は保たれていなかった。

人という人はいなく、真っ赤な色の液体が、壁や床に散乱しているだけだった。

「…ここもだめだったねー……」

「モコナ、此処以外、避難場所分からない」

「そっかー…ピンチだなー…」

 

軍機が飛んでくる音がする。

「…こんな時でも、魔法は使わねえのか」

「………うん」

もう、かなり近くに飛んできた。

 

「オレ、小狼君を探しに行ってくるねー」

 

…コイツの言ってることは自殺行為に等しい。

「んじゃ、黒たんは頑張って避難できるところ探してねー…」

「な…、おい!」

俺の言うことも聞かず、外へ飛び出す。

飛び出した場所が悪かったのか、アイツは落ちてきた爆弾の爆風に吹っ飛ばされた。

 

 

 


生命無限の理(ことわり)は

先祖代々受け継がれ

 

 

 

「あの時はオレもびっくりしたけどねー」

詩の主は詠い続ける。

生命無限の理が無くなるまで。

 

 

 


「ファイー!」

「…だから言わんこっちゃねえのに…」

白饅頭はファイの近くへと飛び跳ねていく。

「大丈夫、大丈夫だってばー」

「ほんと?ほんとに大丈夫?」

「多分ねー」

 

「多分じゃねえだろ、その傷」

アイツの体からは血が流れ出し、顔に生気が無い。

「…うん。多分じゃないかも…」

自分の血を触り、まじまじと見つめている。

 

「…立てるか」

「んー、いや、頭がぐらぐらするー…」

これだけの血が流れ出ているのに、よく貧血だけで済むな。

「それに、なんか黒様が歪(ゆが)んで見えるー……」

…貧血だけじゃ済まなそうだった。

 


「…で?どうするんだ、これから」

「え?あ、あーそうだね…これじゃ小狼君探しに行けないねー」

 

「モコナ行くー!!」

 

「…は?」

 

 


白饅頭はその場からすぐに消えた。

「あーあ、行っちゃった…」

「ったく、どいつもこいつも勝手な行動しやがって…」

「あははー…ごめんごめん」

反省の顔は出ていない。

 

「オレ……死んじゃうのかな…………」

いきなり唐突な事を言いやがる。

「爆風に吹っ飛ばされただけでか?」

「だってオレ、黒ぷんみたいに頑丈じゃないもんー…」

「…」

「だからさー、頭もぐらぐら、目の前もぐらぐらで……  うっ…」

突然口に手をかざす。

げほげほと音がして、鮮やかな赤色の血が噴出す。

 

 

「…うわーぁ…」

「うわ、じゃねえだろ」

「じゃあ、何て言えば良いのー?」

「…さあな」

俺もよく考えてなかった。

「あーひどーい…やっぱり分かんないんじゃないかー……」

 


いや、こんな事を話している場合じゃない。

 


「俺は手当ても何も出来ないからな。死ぬか死なないかはお前が決めろ」

「………やっぱ酷い…」

「仕方ねえだろ、お前が飛び出さなきゃこんな事にはならなかったのによ…」

「はいはいごめんなさいでしたー…というか、もう限界でーす…」

コイツは無駄なことに力を使っている。

 

「……だが、まだ楽にはなれないようだな」

「みたいだねー…  …あ、そうだ!」

限界だと言うのに、いきなり大きな声を出す。

「まだ楽になれないなら、聞いてほしいモノがあるんだー」

「…何だ」

声がかすれて聞こえる。

「詩(うた)だよ、詩」

「詩ぁ?」

コイツは笑みを浮かべている。

「オレの国で伝わってる詩。小さい頃から教えられてきたんだけどー……っ」

また血を噴出す。

「喋らねえ方が良いんじゃねえのか」

「…ううん、今死んじゃうと心残りがー…」

……やっぱり無駄だ…。

「…じゃあ、詠っていいね…?」

俺は返事をしなかった。

しかし、空を見上げて詠いだす。

 

 

 

 

 


真っ暗な  真っ暗な

闇が 広がるこの世界

 

戦争ばかり  平和は来ない

暗闇広がる この世界

 

生命無限の理(ことわり)は

先祖代々受け継がれ

 

今の 世界の状況は

子孫代々受け継がれ

 

 

 

 

「…っ!  うぇ…」

「………もう詠うな」

血を吐き、地面に倒れこむ。

「お願い…黒たん……、この…続き………渡り道…で…………聞い……て……」

「…渡り道?渡り道って何だ、おい!」

 

 


だが、もうアイツは問いには答えなく、

最後に笑顔を残して、

目を閉じて、息を止めた。

 

雨が降ってきても、軍機が遠のいても、

もう目を開けることは無かった。

 

 

息は、出口の無い迷路に閉じ込められた。

二度と出られない 迷路に。

 

 

 


詩の主は切り株から降りる。

「ねえ?黒ぴっぴって、どうやって此処に来たか覚えてる?」

 


地面に落ちた枯葉をザッと蹴る。

そう言えば、小僧も何処かに行ってしまった。

「いや、覚えてない…というか、さっきも言っただろう」

「あ、そっかー!あははー」

コイツは自棄(やけ)に笑う。

 

 

「…オレは、知ってるよー」

「? 何でだ?」

「言ったでしょー?此処は死の世界への渡り道だって…」

 

 

 

 

「………くそ、渡り道って何なんだ…」

雨に濡れながら、呆然と立ち尽くす。

 

そこに。

 

「黒鋼ー!ファイー…………あ!!」

白饅頭が飛び跳ねて近寄る。

「ファイ!!」

「もう駄目だ。何しても起きねえ」

「ファイ、嘘ついた!大丈夫って言ったのに!」

 


「…おい、白饅頭」

白饅頭は何かと慌てている。

「…やっぱりいなかった。何処探してもいないんだもん」

「いや、そういうことじゃなくて…」

「じゃあ、何?」

 

 

「…………渡り道って、何だ」

 


その瞬間、白饅頭に翼が生え、魔方陣が現れる。

「……は?」

桜都国の時と同じだ。

「…って、おい!聞いてんのか!!」

白饅頭は見向きもしねえ。

口が大きく開き、竜巻のような、唸(うな)る音がする。

「待て、白饅頭…俺が聞きたいことは……」

 

 

 

時既に遅し。

俺はでかい口の中に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

「モコナはまだ現実の世界にいるよー」

「…俺は…白饅頭の口から此処に来たって事か…?」

「ご名答ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…ご名答ー……」

詩の主は草原に大文字になって寝転がる。

「もう、何も変えられない…」

「死んだら何も出来ないだろう」

「だから、そういう事だよー」

 

詩の主は、草原をごろごろと。

「でも、黒様はオレの願いを叶えてくれた」

「願い?」

「現実世界で言った願いを、渡り道で聞いてくれた。」

…ああ、あの事か。

コイツが死ぬ間際に、悶(もだ)えて言った、

 

願い。

 

「あの時は、あの願いぐらいしか思い浮かばなかったんだー」

「…他にもあるのか」

「そりゃありますともー……なさそうに見えるのー?」

「少しな」

「………ま、いいけどねー…それよりさー」

 

また起き上がる。

…落ち着きが無い 一言で言って。

 

 

「ここは死の世界への渡り道だから、黒たんは来ちゃ駄目なんだよー…」

 

 

 

 

 

 

「…だから旅の途中だと思ったのか」

「何がー?」

「いや。…それより、俺はどうすればいいんだ?」

「…さあ」

 


……………………さあ!?

「というかー、此処は…    あ、言ったかー」

「死の世界への渡り道、だろ」

「んーまあそういう事だけどー」

返答がはっきりじゃねえ。

 


「オレのわがままでこんな所にみちづれしちゃったね…」

「みちづれ?」

「でも…」

秋風が吹く。

「今ならまだ間に合うかな…」

 

 

 


「来るな、って言われてもだな…」

「うん。分かってるよー」

「…っ だったら…!」

「だって、今帰したら黒ぴっぴ死んじゃうよ?」

「はあ?」

なんで俺が死ななきゃならねえんだ。

「…頭、大混乱中?」

「当たり前だろ」

なんでコイツはここにいて、俺は行ったり来たりで。

「…どうすればいいんだ…」

 

 

 

「間に合うって、何がだ」

「えー?」

さっきから風が吹いて止(や)まない。

「死ぬか死なないか、って事だよ、黒りんが」

「俺は死にたくないが…」

「…じゃあ、そうしてあげるよー」

何が何だか…

「もう少し、あっちの世界の黒様を待っててあげれば…」

 

 

 


「でも、そろそろ帰れるよ」

「何処からだよ」

辺りが暗くなってきた。

「向こうの世界のオレはもう気付いてると思うしー」

「…あの秋になってる所か?」

「そうそう!さて、と。準備は良い?」

「?」

 

いきなり草原に爆音が響いた。

 

 

 

 

「あ!良かった!大丈夫、そろそろ帰れるよ!」

「そうか…そういえば、小僧とその姫を呼ばなくて良いのか?」

「…やっぱり分かってない…」

「…何がだ」

 

 

「あの2人も、もういないんだよ…?」

「いない?」

 

 

 


「何だこの音!!」

「大丈夫、少し我慢してー」

その不快な爆音はしばらくの間、草原中に響いていたが、やっとの事で鳴り止んだ。

 


しかし、次に待っていたのは、現実逃避したくなる、「現実」

 


足元の草原がみるみる崩れていく。

「草原が…!」

「もう少し、もう少し…」

その声と同時に詩の主は小さくなっていく。

「な、おい待て!俺はどうすれば…」

問いに答えず、詩の主はただ笑みを見せるだけ。

 

 

やがて、詩の主は小さな光となって、消えてしまった。

 

 

俺は、真っ白な何も無い場所へ取り残された。

 

 

 

 

「小狼君はあの後、爆弾にやられて。さくらちゃんは架空の世界に逃げて」

「架空の世界…?」

「さくらちゃん、頑張ったんだけどね、現実世界にいたくないって思って、消しちゃったんだ、自分で。だから、架空の世界にいても、死んでると同じ意味になってしまう」

「その姫は今どうしてるんだ」

「果てない空間を走り続けていると思うけどー」

「…」

「だから、黒ぷんが戻っても、意味無いのかもしれないねー…と。今、向こうの世界で終わったみたいだから、そろそろお別れだねー」

「終わった?」

「うん。終わった。…………じゃあ、バイバイ」

「売買?」

 

 


「…さよなら」

 

 


詩の主は体中から血を流していた。

現実世界で起きた、あの出来事の様に。

「…!?」

何がおきたのかさっぱり分からない。

詩の主は笑っている。

 


「………さよなら」

 


もう一度同じ言葉を発して、詩の主とその場所は同時に消え、言葉だけが残った。

 

 

 


「この世に終わりがやってくる」

 

 

 

 


気が付くと、俺は真っ白な空間にいた。

何処を見渡しても、何も無い空間。

俺は一体…

さっきの草原での出来事や、秋の世界での出来事やら…

 


全部、夢だったのか?

アイツは、幻だったのか?

戦の世界は、…何処へいったんだ?

 

 

頭が痛い。

歩き回っても、どうせ意味が無いだろう。

渡り道と状況が違う。

 

 


そこへ、足音が聞こえた。

その足音は、俺に近づいてくる。

今度は何だ?

詩の次は人間か?

足音のする方向を見ると、1人の少女が立っていた。

 

 


「何で黒鋼さんが此処にいるんですか…?」

 

 

 

 

 


詩の主は 世界を詠う

終わりに向けて 詠いだす

 

世界は壊れ


世界は崩れ

 

 


この世に終わりがやってくる

 

 


END


誰もいない町続編、頂いてしまいましたvv
相変わらず神秘的な雰囲気が素晴らしい文章です。一気に引き込まれます。
ファイさんが切なくて儚げで・・・。
ファイさんが詠う不思議な詩も素敵ですよね。
先が読めない展開、続きが楽しみです。
WITCHさん、ありがとうございました!!



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