夕立


この季節、一番困るもの。それは暑さよりむしろ夕立だ。
前触れもなく突然やって来て、しかも大雨を降らせていくのだから、質が悪い。
仕事が終わって駅へと向かう途中、夕立に掴まってしまって、慌てて逃げ込んだ家の軒先で、昴流は途方に暮れていた。
近くにコンビニやスーパーと言った、傘を売っている所も無いし、此処から駅まで歩いて10分近くかかる。
すぐに止むだろうかと甘い期待を抱いてみたりしたのだが、雨足は強くなっていく一方で、全然止む気配を見せない。
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・駅まで走って行くか。
諦めて一歩を踏み出そうとした時、目の前に見覚えのあるワゴン車が止まった。
昴流は驚いて目を見開いた。此処は新宿から二駅も離れているのに。それに、このタイミング。
「星史郎さん・・・!」
運転手は助手席の窓を開けると、微笑んで乗るよう促した。

「すいません、わざわざ来て頂いて・・・・・・」
「いえ。愛する昴流君を迎えに来ることができて、嬉しいですよ」
そんな事をさらりと言われて、昴流は頬に朱を走らせる。
情報源は北都ちゃんだろう。
嬉しい半面、星史郎さんも動物病院があるのに、と恐縮してしまう。それを見越してか、星史郎はいつも茶化すような言い方をして、昴流を上手く丸め込むのだ。
優しい人だな、と思う。
雨に濡れた町が、窓の外を通り過ぎていく。
外を見ていると、不意に横から声を掛けられた。
「雨、お好きですか?」
「はい。・・・何だか、町が洗われて、綺麗になっていく気がするんです。それに、水は生き物に絶対に必要なものだから・・・・・・」
思っていることを上手く表現できない。何とか言葉を探そうとしてそう言ったけれど、それも微妙に違う気がする。
けれど、星史郎は少し考えてから、頷いた。
「そうですね。僕も雨が好きですよ」
何故だか、その微笑を見て、自分の思いが伝わったのがわかった。
何だか嬉しくて、自然と笑みが零れる。
「そうだ、昴流君、『トップス』でケーキ食べて帰りませんか?」
「はい」
笑って頷くと、星史郎は嬉しそうに眼を細めた。




         あお様から東京BABYLON小説vv
         私も雨が好きですよ!!(不純にね・・)
         こんな二人の日常の何気ない会話を、甘く美味しく
         まとめてしまわれる所があお様の凄いところだと。
         あお様、ありがとうございました!!

          

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