So sweet kiss





いつもとかわらず静かな夜が、今日はちょっとだけ特別になる。
忙しい時間の合間をぬって、アシュラ王がファイを側へとおいてくれているからだ。

一人の夜はいつも寂しい。
まだ子供だからなんて、本当はそんな言葉を使うのは嫌なのに、それを今だけ言い訳にしたくなるくらいで。
それでも我慢して我慢して、どうしても悲しくなる頃、アシュラ王はファイをそこからすくい上げてくれる。
絶妙なタイミングで、いつも。

そしてアシュラ王の暖かい部屋で、暖かい光に包まれて二人で過ごす時間はとても大切なものだ。
アシュラ王は山のように積まれた書類に目を通しながらワインを飲んで、ファイには色んなお菓子と果物が
用意してあって、それを嬉々として頬張りながら書斎に並ぶ本を読んだりして過ごす。
特別なことをしなくても、側にいてもいいというその距離がファイには一番貴重だ。

「お酒っておいしいですか?」
ふとファイが本から顔を上げて、子供らしい高く通る声でアシュラ王に声をかけた。
大きな蒼い瞳は興味津々に輝いていて、アシュラ王はくすりと笑みを零す。
「どうした、急に」
「おうさま、いつもお酒飲んでるでしょう。大人のひとってみんなですけどー。だからおいしいのかなって」
「いつも、ではないと思うが・・・そうだな、ファイといる時はいつも飲んでいるかもしれないな」

手にしていた書類をばさりと置いて、アシュラ王がおいでとファイを呼ぶ。
ぱあっと表情を明るくしてファイが駆け寄ると、アシュラ王はひょいとファイを抱き上げ膝に乗せた。
目の高さが同じになって、なんとなくくすぐったい。はにかむようにファイが笑った。

「美味い時も、そうでない時も飲みたくなるものとでも言っておこうか」
「おいしくなくても・・・?」
きょとんとした顔でファイが首を傾ける。アシュラ王がにこりと微笑む。
さらりと額に零れる金色の髪を、長い指が優しく掬った。
「ああ、だがファイといる時に飲む酒はいつも美味い」
「・・・いつも?」
「いつもだよ」
穏やかな声が胸の奥に沁みる。
アシュラ王が笑顔を見せるだけで、ファイの心は甘く弾む。

「だがまだ子供には早いな」
「う・・・」
子供と釘を刺されてファイはぐっと詰まった。
自分が子供だなんて、自分が一番良く判っている。ちゃんと、それを認められるくらいには。

「なら、早く大人になりたいです・・・」
早く大人になって。
いろんなことを知りたい。自分のことも、アシュラ王のことも。
早く膝の上に乗らなくても、同じ目線で話すことが出来たら。
きっと何かが変わってくるはずなのに。

「ファイ」
考えを見透かされたように、頭をぽんぽんと叩かれた。
大丈夫だよとファイを宥めるような優しい手のひら。
「もう寝る時間だ」
「・・・おうさまも?」
「私はまだ、することが残っているから先に寝ていなさい」
ふわりと身体が浮いて、アシュラ王のベッドに運ばれた。
横にしてもらって、シーツをかけてもらってしまうと、まだ一緒に起きていたいだなんて我侭も言えない。
名残惜しげにアシュラ王を見つめれば、仕方ないなと言いたげに王がファイを覗き込むようにかがんだ。
絹のような艶を持つ長い黒髪がさらりと揺れる。

「おやすみのキスを」
「はい」
ファイには広すぎるベッドから身体を起こし、アシュラ王の唇に軽く触れる。
いつもならそこで終わるはずなのに、今日はアシュラ王の手がファイの頬をそっと押さえた。
「・・・?」

もう一度、触れた唇。
少しだけ強く重なって、濡れた感触にファイの肩がびくりと揺れた。
強張る唇の隙間からこじ開けられて、舌を強く吸われる。
「っ・・・ン!」
甘噛みされて、そんなところから身体中の力が抜ける。
口の中に入ってきたものがアシュラ王の舌だと判ったときには、もう既に唇は離れていた。

「・・・お、うさま・・・?」
「ん?」
「っい、今の・・・」

息が、苦しい。

「まだ、早かったか?」
大人のキスだよと、アシュラ王がいつもと変わらない笑みを浮かべて言った。
いつもと変わらないように見せているだけのような、瞳で。

心臓が、バクバクして息が。

「酒の味がしただろう?美味かったか?」
「全然・・・わかりません、でした・・・」
ぼんやりとしたままファイが呟く。
珍しくアシュラ王が楽しそうに笑い声を上げた。

そんな笑った顔にも、胸の奥がぎゅっとなるなんて。
どうして。

「おやすみ」
ファイの頬からそっと手が離れていく。
おやすみなさいと、声にならなかった。

シーツの中で、きつく眼を閉じる。何故だか目尻からじわりと涙が滲んだ。

涙の理由さえ自分でわからなかったけど。
初めて知った大人のキスが、嫌じゃなかったことだけはわかる。
アシュラ王が触れていた頬の熱さで。

ぱさりと紙の音がする。アシュラ王がまた書類に目を通し始めたのだろうと、まだぼんやりしたままファイは
思う。
アシュラ王はなんともないんだろうか。自分だけがこんな?



どうしよう。
こんなの、絶対に眠れない。






・・・・・・・・・・・・・!!(悶絶)
『As you wish』の管理人・葉月様から頂いてしまいましたvv
アシュファイですよ、アシュファイ!!!
アシュラ王さりげなく鬼畜ですよ。じらし上手!!
でも自分もかなり我慢してるんでしょうね。いい男っ!
ファイさん滅茶苦茶可愛いです。
それは感じちゃってるんだよとか、あることないこと教えてあげたい・・!!(教育の義務はアシュラ王のものです。)
アシュファイ過去捏造話完結祝いですって。こんなのいただけるなら何本でも捏造しますよ!
嬉しさのあまり、長らく患っていたスランプが完治しました・・・☆

葉月様、このご恩は一生忘れません!素敵な小説をありがとうございました!!




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So sweet kiss