【黒き光】

真白な世界の中に光る黒。
嗚呼。
あれはきっと貴方ですね?
触れようと、手を伸ばす。
けれど手は届かない。
嗚呼。
オレはもう、貴方に触れることは許されないのですね?
真白な世界の中。
ただ一人。
ただ一つ。
貴方だけが、黒く光る。

***

「貴方には、安らかな眠りを・・。」

死は与えられないから。
一度、愛してしまったから。

「人間って、臆病だねぇ・・。」

魔法をかけた後、ポツリと呟く。
顔は下に向けたまま。
・・静かに、唇を噛んだ。

「・・王。」

貴方に涙を見せたくなくて。
眠っている貴方の顔を見ることが出来なくて。

「・・・ファイ?」

チィの心配そうな声がするのに。
それでもオレは、顔を上げる事が出来なくて。

「どうしたの?ファイ・・」

「・・・チィ。・・オレ、まだ泣けたみたいだよ。」

ハハッ、と乾いた笑いが響く。
チィはきっと首を傾げてるんだろう。

「変だねー。・・アノ日、もう泣かないって、決めて・・っ」

            ―――涙、忘れた筈なのにねー。

続く筈の言葉は、そこで途切れた。
溢れる涙に遮られて。

俯いたまま涙を零すオレは、きっと、酷く見っとも無かったに違いない。

けれどそれでもオレは、貴方に涙を見せたくなくて。

せめてもの強がり。
せめてもの意地。

「ファイ。これからどうするの?」

チィの問いかけ。
嗚呼。そうだった。

「・・ここを、出るよ。」

涙を拭った。

「ここ?」

「・・そうだよ?」

笑顔を作る。

「チィ、お願いしてもいいかなぁ?」

「いいよ。ファイ。」


もう一度魔法をかけて、光が放たれる。
チィの姿を変えて、見張るように、と告げる。
・・見張る?
違う。
本当は、『見守る』ように。
オレはもう傍には居られないから。
貴方を、見守るように。
・・そして貴方が目覚めたその時に。

・・・オレが、覚悟を決められるように。



もう涙は流れなかった。

最後に、眠る貴方の姿を記憶に焼き付けて。

もう、触れることすら出来ない貴方に、告げる。


「・・・愛しています。・・我が王よ。」


冷たく響くその声が。

何故だろう?

無償に、悲しくて・・。






            最後の魔法の光に包まれた時。


                 ポロリ・・と。


              

            一滴ダケ、零レタモノハ何?




             「・・さよなら。アシュラ王。」




                目を、閉じた。






***



真白な世界。

雪が舞う。

貴方はその中で一人の黒。

美しい、美しい。

儚げで。

でも本当は強い。

人を惑わす。

心を惑わす。

美しい、美しい。

儚く揺れる色。

オレには触れることすら出来ない。

オレが触れると、濁ってしまうでしょう?

だから、触れない。

オレは今の色が好き。

真白な世界の中。

濁ることなく、輝く色。

妖しく光る、黒き光。

それはそれは、美しい――・・。






                   白い世界



                   冷たい時





               そんな中で 光る輝き








                  それは貴方の







        



                    黒き光












                    *fin*





    翌檜 白羽様から、相互リンク記念に頂いてしまいました♪
     アシュファイだーvvありがとうございます、翌檜様!!! 
     翌檜様の小説は、切ないながらもどこか温かくて大好きです。
     別れるときのファイさんの気持ちの描写とかもう★
     素敵な小説ありがとうございました。
     これからもよろしくお願いしますvv

 



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