「くろりん

「…」

普段から柔和な顔を何時もにも増して緩めて嬉しいという雰囲気を隠そうともせずに、近付いてきたファイに黒鋼の深層心理は最大限の警戒を訴えてきた。

警告に従って半身をひき、迎撃にも逃亡にも都合の良い姿勢を取る黒鋼の前にファイは握ったままの手を差し出す。

「うわっ」

上体を引いた黒鋼にファイが顔を近づける。

「…」

「…」

無言のままに黒鋼の上半身が限界を訴える角度までにまがる。無理な姿勢を続ける黒鋼の視界で青い色が揺れる。

「…おい…何のつもりだ」

苦しさも込めて不機嫌な声を出している。その訴えが届いたのか、ファイが顔を近づけるのを止める。

「はい」

その代わりのように再び突き出された手に反射的に出した黒鋼の手の平にどこかで見たような青いものが落とされる。

「……何だ、これは?」

「イヤーカフス。くろりん知らないの?」

「お前みたいな趣味は無いからな」

黒鋼の中でやっと記憶と現物が一致する。黒鋼の手の平の上のものはファイの耳で揺れるものと同一のものだ。

「女の付ける物だろ。そんなの」

「考え方が古いね、くろたんは」

「あ!?」

喧嘩でも売っているのかと尋ねたくなる様なことをいうファイに黒鋼が青筋を浮かべる。そして同時に背筋に悪寒が走る。

「付けてあげるよ」

「何で俺がそんな物つけなきゃなんねぇんだよ!」

ニコニコと笑うファイに、彼が近付いてきた時に逃げなかった自分を心底後悔する。

「おそろいだよ」

笑顔であるはずだ。彼が浮かべる物は紛れも無い笑顔のはずだ。背筋に走る悪寒と、防衛本能からの警告さえなければ。

「…」

逃げることを諦めた黒鋼の耳にファイが黒鋼の手の平から持ち上げたカフスをつける。きっちり合う所を探してしばらく上下させた後、ファイが黒鋼からはなれる。

「にあわないね」

「お前が勝手につけたんだろうが!」

「ごめんね。似合わないなんていって」

「違う!!」

確信犯ほど性質の悪い物は無い。黒鋼の怒りの対象を歪めるファイに諦めて黒鋼が肩を落とす。言い合いでファイに勝てるとは幾等黒鋼でも思えなかった。

「でも、やっぱりくろぽんはこんなのつけ無い方が可愛いね」

言うなりファイが黒鋼の耳からカフスを外す。

じゃあ態々つけるな、と心底思った黒鋼の言葉は溜息に消えた

 



                   瑯月さんに相互リンク記念に頂きました。
                   黒鋼をからかってるファイさんが大好きです。
                   瑯月さんがファ黒派だとおっしゃってたので、どんなのが来るのかと
                   ドキドキしてたのですが、凄く私の好みです。私は黒ファイ派なの
                   ですが。瑯月さん、ありがとう!!またよろしく!(え・・・)
                                      




                                         
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